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「いいや。それは俺が買って、持って行く。だって今度からは宅配便じゃなくたって、インターホン押してもいいでしょ?」  そんなの当たり前だった。たとえ宅配便が届かなくなったってどうにかなる。そんなことよりも十川君がそばにいないほうがよほど困るし、生活にだって支障が出る。 「もちろん。だって、もうここに住んだっていいんだよ」  石垣の上にレモンスカッシュを置いて、羽織っていたカーディガンのポケットを探る。そこから、リングで繋がったふたつの鍵を取り出した。その一方をリングから外し、十川君に差し出す。十川君は私の手ごと握って、爽快な笑顔で首を傾げた。 「家にはいろう。もうこんなに冷たくなってる」  十川君がまた額にキスをしようと屈んだので、体重をかけて彼の首に巻き付いた。くすくす笑う十川君が態勢を直そうともがく。レモンスカッシュの缶を石垣に置く音が、空高くまで響いた。そうして目の前で笑う十川君の冷えた唇に、ようやく自分の唇をくっつけた。世界は、甘くて酸っぱい香りに満ちた。細くたくましい十川君は想像以上の力持ちで、そのまま私の体を横に抱きかかえて立ち上がる。 「今、俺の気持ちに火がついたよ」  十川君は新しい鍵を使ってオートロックの玄関を抜けた。私は鍵を渡すために置いた缶のことを思い出した。 「あ、レモンスカッシュは?」  聞こえないふりをして微笑む十川くんは、真っ直ぐ前をみたまま荷物でも運ぶような軽やかな足取りで階段を駆け上がり、私は温かい部屋へ届けられた。
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