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 4月7日。  きょうも私は宅配便を待ち、パソコンを開きながら窓を覗く。白い軽バンが眼下の坂道を下って行った。机に手をついて、思わず身を乗り出す。軽バンの黒い窓にステッカーを探した。  なかった。違った。  小さなため息がついて出る。またパソコンに向き直り、彼をイメージするようなステンレスの青いマグカップを検索する。私は仕事が休みの日、こうして午前中のほとんどを窓辺で過ごす。  彼を知ってから、この街にはかなりの割合で白や黒、シルバーの軽バンばかりが走っていることに気が付いた。私は特に白い軽バンに気を配り、何度も窓を覗き込む。この地域を担当しているあの彼は、いつも青いジャンパーを着て、肘まで袖をまくっている。逞しいとまではいえない腕にも、引き締まった筋肉の隆線をきゅっとつくってたくさんの荷物を運ぶ。住宅街の狭い道路をすいすい走るその軽バンのナンバーは、307。黒い窓に黄色いステッカーがあれば、それは間違いなく彼の軽バン。  あ、また白い軽バン。私はまた身を乗り出したが、今度ははじかれるように身を引いて、驚きと期待にひるんだまま、何気なくそばのカーテンに身を隠した。覗き込んだ眼下には、思い描いていたとおりの白い軽バンが坂道に停車していた。運転席のドアが開く。黒いズボンの長い足がひらりと降りて、青いジャンパーの背中が風に膨らんだ。きちんと切りそろえられた襟足の首元が爽快だ。彼がきた。私の部屋へ。バックドアを悠々と上げて、段ボールの山の中に上半身を突っ込む。片足がひらりとバランスをとって持ち上がる。彼は大きな段ボールを抱えながらバックドアを閉めて、駆け足でマンションの正面玄関に吸い込まれていった。
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