ロマンス

1/4
前へ
/62ページ
次へ

ロマンス

******* 「ねえアッくん、どうして今日ルーフ閉めてたの?」 彼女は密閉された車内で、あなたに尋ねました。あなたはスーツで、彼女も綺麗めのワンピースというかしこまった格好なので、ルーフが閉まっていては窮屈でした。 整えた髪を少し崩して、あなたは彼女に答えます。 「娘の彼氏がオープンカーで登場したら感じ悪いだろ」 「え、そう? お父さんそういうの嫌いじゃないと思うよ。格好いいし」 「こういうとき派手さはいらないんだよ。地味にしていくもんなの」 彼女の父親と料亭で会ってきた帰り、あなたはこのままふたりのマンションへと戻ります。 出会ってから二年が経ちましたが、あなたが運転し、彼女が助手席に座る、この構図は変わりません。 彼女の父親とはこれまで何度か会っていましたが、改めて彼女との将来について報告するミッションを終え、さすがのあなたも肩の荷が降りたようです。 「アッくん、これでもう後戻りできないよ。私のことお嫁に貰ってくれないと」 「……同棲までして、これで結婚しなかったら詐欺だろ」 「あ、偉い!」 ケラケラと笑っていますが、彼女は数ヵ月前のドライブで夜景をバックにあなたにプロポーズされたときは、くしゃくしゃになって泣いていたものです。
/62ページ

最初のコメントを投稿しよう!

433人が本棚に入れています
本棚に追加