3話

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 とりあえずもう二、三軒だけ聞いて切り上げようと、ラナは行き交う人の流れに沿って歩き出す。 ここがだめなら近隣の他の市場まで足を伸ばして… 「…ユレムの葉を探しているのか?」 背後から声をかけられた。  驚いて振り返ると、暗色のフードを被った小柄な老婆と目が合った。 農夫のように焼けた褐色の肌に、色抜けして白っぽくなった金髪、鷹のように鋭い目つきとそこに収まる色素の薄い瞳が、ラナを値踏みするように見つめている。  ラナは小さく頷いた。 「はい。あなたは…知ってるんですか?ユレムの葉のこと」 「ああ」  その答えに、ラナは期待を込めて二つ目の質問を向ける。 「それじゃあ、ニーグの角は?」 「もちろん知っている」  ラナは黒魔術を解くのに必要とされていた材料名を、覚えている限りで告げた。 老婆はそのすべてを知っているという。 「どこで買えますか?私、その全部を探してて…」 老婆が鼻で笑った。 「徒労だ」 「え…?」 「その手のものは市場なんぞには売っていない。そもそも、これらの名前自体、知らない方が普通だ」  市場には売っていない?その言葉にラナは困惑する。 「じゃあ、どうすれば…?」 「そこらには出回っていないが、私はお前が必要とするすべてを持っている」 「持ってる?あなたが…?」 確認するように尋ねると、老婆は深く頷いた。 「あの、それなら…少しだけ分けて頂けませんか?」  ラナは頭を下げて頼み込む。 これらの材料を手に入れないことには、先に進めない。 「どうしても必要なんです。言われた額を払うので…ていっても、あんまり高いと出せないけど…」 一応、持ち金はそれなりにある。 今までメイドとして働いて貯めてきた全財産が。  老婆はラナを見つめると、口を開いた。 「それが欲しいのか。欲しいのならやってもいい。…だが、何に使う?」 「それ、は…」 ラナは言いよどむ。 黒魔術を解きたいと正直に話すべきだろうか。 目の前の魔女然とした老婆なら、それが通じるかもしれない。しかし… 「…わけありか。いいだろう、ついて来い」 躊躇して口ごもっていると、老婆は背を向けてさっさと歩き出した。  ラナの葛藤を汲んでくれたのか、それとも理由にはそれほど興味がないのか、あるいは気が短いのかもしれない。  ラナは慌てて彼女の後を追う。 「オルビナ・レッジ」 「え?」 「私の名だ」 人ごみの間を縫うように歩きながら、老婆は名乗った。 「私は…ラナ・クロア」 返事として、ラナも自分の名を告げる。  多くの人でにぎわう市場を、ラナはオルビナについて歩いた。 そこで初めて、オルビナが不自然な歩き方をしていることに気づく。 左足をわずかに引きずって歩いていた。 怪我か、あるいは病気の後遺症だろうか。 想像するに留めて、ラナは彼女の後ろに続いた。
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