エルクは納得がいかないという顔のまま、開かれたページを見つめている。
その三人を知っているのに、なぜヴェリカを知らないのだろうか。
それは、彼女が病気がちだったということに原因が?
若くして亡くなったというくらいだから、彼女は公に出るどころか、日常の外出さえままならないほど病が重かったのかもしれない。
その存在を、周囲から忘れられてしまうほどに。
「それで?その女が何なんだ」
「彼女がどうというよりは、あの祝宴でラナにヴェリカの名を騙らせた者は、その名前に何らかの意図を込めていたのではないかと考えたのですが…」
「つまり?」
「どうして騙られたのが、その名前だったのでしょうか。なぜ現在の当家の女性の名や、無作為に選択したものではなく、数十年も前に亡くなった女性の名を選んだのでしょうか?偶然一致したとは思えません。ですがその疑問も、あなたと彼女に何らかのつながりがあったと考えれば合点がいきます」
「すでに言ったが、俺はヴェリカ・メネスカルなんて女は知らない。当時のメネスカル家にそんな女が存在していたとしても会ったこともない。その名さえ、あの祝宴の晩に初めて聞いたくらいだ」
「本当に…?」
「なぜ嘘をつく必要がある?」
ロシュアは肩透かしを食らった気分になる。
あの名前は絶対に重要な鍵だと考えていたが…それには、彼とヴェリカ嬢に接点があることが大前提だ。
しかし、彼が彼女を知らないのでは話にならない。
「それより…あのババァについては何か分かったか」
「オルビナ・レッジですね。彼女についてはまだ…調べる切り口がなく、ほぼ何も分かっていない状況です。ですが、オルビナがメネスカル家から招待状を手に入れたことは確かなようです。メネスカル家の夫人に話を聞きました。オルビナが招待状を高値で買い取ったと。そしてオルビナ自身は、依頼者の頼みに沿って動いているらしいことも…」
エルクが目を細めた。
「…依頼者?」
「はい。オルビナの裏に何者かの存在があり、彼女はただその人物の意向に沿って動いているらしいです。あなたの殺害を命じたのもその人物だと思われます」
「その依頼者についての情報は?」
「夫人は何も知らないと仰いました。話の詳細とヴェリカ嬢に関することを聞こうと、改めて当家を訪ねましたが、行き違いになってしまいました。彼らは旅行に出たらしく、帰ってくるのは二週間後だそうです」
「…あるいは、その証言そのものが偽りで、メネスカル家自身がババァの依頼者だという可能性も否定できない」
「それはつまり…夫人の証言が嘘だと?」
「ああ」
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