エルクは引き出しを開けると、中から書類の束を取った。
ロシュアの前のテーブルにそれを広げると、自身も対面の座席に腰を下ろす。
「これは…?」
尋ねかけたが、ロシュアはすぐにそれが何か理解した。
帳簿、事業報告書、貸借対照表…
「昔、ウォーレンルースとメネスカルの両家は、共同で事業を経営していた過去がある」
「両家は協力関係にあった…ということですか?」
「ああ。もっとも、それは父の代のことで、俺は何ら関わりはなかったが…確か、病院の設立とその運営だったはずだ。しかし、その事業は息短く暗礁に乗り上げ、最終的にメネスカル家が莫大な額の負債を負わされている」
エルクが負債額に指を這わせた。
指し示された数字に、ロシュアは目を見張る。これだけの額となると…
「…あなたの家にも大きな痛手だったのでは?」
「いや、すべての負債をメネスカル家だけが負った。父はうまく立ち回って、事業が立ちいかなくなる前に難を逃れたらしい」
「それでは、メネスカル家が今のようになってしまったのは…」
「あの家が経済的に大きく傾いたのは、おそらくこの時の莫大な負債が一因だろう。だからこそ奴らが、一族が衰退するきっかけを作ったウォーレンルースに今も恨みを抱いていてもおかしくはない」
書類に視線を落としたまま、エルクは話を続ける。
「まして、今の当主のネイヴは当時の当主、ダンネの息子だ。奴がウォーレンルースの再興を知ってそれを阻もうとしていても、おかしな話じゃない」
「つまり、メネスカル家の現当主があなたを殺そうとしていると…?」
「ああ」
相槌を打つと、エルクは古い新聞をロシュアへと差し向けた。
そこに載っていたのは、メネスカル家が過去に見舞われた事故についての記事だった。
昔、ネイヴの両親と姉二人が旅行の道中に崖から転落死したということは、ジェインに聞いている。しかし…
「自殺…?」
「ああ。一見、不運な事故死だが、ダンネはその頃、多額の借金で首が回らなくなっていたという。莫大な負債を苦に、自殺を図ったんじゃないかという憶測も飛び交っていたらしい。残されたネイヴは、その頃すでに家の事情も把握していたはずだ。そして、父の死が自殺だとすれば、その原因が何かはすぐに察しただろう」
「彼が、父親の死の動機がウォーレンルース家にあると考えているということですか。そして、その再興を知ってオルビナに殺害を依頼したと…?」
「それだけじゃない。50年前にウォーレンルース家を火災事故に見せかけて殺害したのも…」
「それは…早計な推論では?あるいは何か証拠が?メネスカル家がそれを行ったという…」
「“―…それほど無力無害な家の生まれではないだろう”…あのババァの言葉だ。奴は昔のウォーレンルース家を知っているかのような口ぶりだった」
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