/132ページ
4話
***
窓のない馬車に閉じ込められること数十分、どこをどう走ったのかは知れないが、ラナはオルビナの家に到着していた。
予想以上に大きな住居を見上げて、ラナは呆気にとられる。
屋敷と呼ぶには小さすぎるが、充分に高級住宅の範疇に入るだろう。
オルビナの質素な外見から、貧民区の自分と同等の身分だと考えていたことが申し訳ないくらいだ。
「それで、お前は何が欲しい?必要なものをすべて言ってみろ」
家の中に入ると、オルビナはさっそく本題に入った。
ラナは指を折りながら必要なものを告げていく。
ユレムの葉とニーグの角と、パラの樹皮…あとは何だっけ?
革袋から魔術の本を取り出すと、しおりを目印に、死の眠りの解き方のページを開いた。
その傍らで、オルビナは戸棚から一つ瓶を取り出し、年季の入ったオーク材のテーブルにそれを置く。
「これがユレムの葉だ」
目の前に出されたのは、黄褐色の怪しげな粉末だった。
自分の想像を裏切る実物に、ラナは困惑する。
「これが…?全然葉っぱじゃないじゃない…」
「もとは葉だった。それを粉にしたものがこれだ」
「じゃあ…ニーグの角は?」
オルビナは戸棚をのぞき込むと、もう一つ瓶を取り出す。
「これが…?」
「そう、ニーグの角だ」
瓶の中で揺れる灰色の液体に、角の面影はどこにもない。
「葉や角などと書いてあっても、言葉通りの姿であるとは限らない」
オルビナはにやりと笑う。
「他に必要なものは?」
「えっと…」
ラナは言い淀んで魔術の本に視線を落とすが、読めない。
一度ロシュアに読み上げてもらったのだが、忘れてしまった。
仕方なく、見開きにした本をオルビナに渡した。
「これなんですけど…」
オルビナは目を細め、じっと本に視線を落とす。
「ここに書かれたものを集めて、それで最後に何か唱えればいいらしいんですけど、でも、それも分からなくて…」
「…眠りを解くには、必要なものをそろえよ。ユレムの葉、ニーグの角、パラの樹皮、ヴァルジュを二つ、ベイモンの実、そしてゾーリュ、ウルゴを少々、ネオネを粉にしたもの、ケジュの根…そして汝の血を与え、唱えよ…」
ロシュアが他国の言語だと言っていたその言葉を、オルビナは難なく読みあげた。
「!あのっ!その呪文みたいなものって…」
「これは魔術を使う者の言葉だ」
「魔術を、使う者…?」
魔術とはつまり、魔法のことだろう。
本当に、そんなものが…?
「信じられんという顔をしておるな」
どうやら無意識に胡散臭そうな顔をしていたらしい。
オルビナに指摘され、反射的にラナは謝る。
「でも、魔術って…」
「何を今さら。お前はこの本を信じたからここにいるのだろう」
「信じてるっていうよりは…まだ、半信半疑で…」
オルビナはラナの戸惑いを一笑に付すと、戸棚から次々と必要なものを取り出した。
最初のコメントを投稿しよう!