月見坂の宇宙

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 二匹はそんなことをいいながら、坂の上まで跳ねてゆき、あっというまにたどりつきました。  ウサギはカメを地におろします。  カメは前方にひろがる「絶望の崖」のまっくろさにおののいていましたが、ウサギにうながされてふりかえり、その景色におどろきました。 「宇宙ですよ、カメさん」 「そうだな」 「小石がお月さまの光をうけて、ああやって星のようにひかるのです」 「草つゆもひかっているな」 「そうですね。これははじめて見ました」 「月のしずくだ」 「そうですね、とてもうつくしいです」  風がさわりと撫でつけて、雨上がりの空気がふたりをつつみます。 「これがウサギのとくべつなんだな」 「はい。これをカメさんに見せてあげたかったのです」 「ウサギ」 「はい、カメさん」 「ありがとうな」 「どういたしまして、ですよ」  森のはずれには、長い坂道があります。  その先には「絶望の崖」とよばれる底なしの崖があるため、誰も近づいたりしないのですが、晴れた日の晩には、二匹の動物がその坂道をのぼっていく姿が見られます。  ぴょんと跳ねるたび、長い耳がゆれるその動物は、泣き虫のウサギです。  ウサギの手には、しっかり抱えられたカメの姿あります。  二匹は楽しそうに崖のある坂をのぼっていくのです。  絶望の崖なんて見に行ってどうするんだい?  たずねられると、二匹はわらっていうのです。  絶望なんてありはしない。  そこにあるのは、いつだって無限大の希望なのさ。
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