月見坂の宇宙

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 森をぬけて、小道をそのまま進んでいきますと、坂道があらわれます。  長い坂道の向こうには、切り立った(がけ)がありますので、たいへんきけんです。  むかしあった(さく)は、雨やら風やらに打たれてすっかりだめになってしまい、つよい風がびゅーびゅーと吹くたびに、ぐらりぐらり、がたがたとゆれています。  あぶないので誰も近づいたりしないような場所ですが、ある晩、一匹の動物がその坂道をのぼっていました。  ぴょんと跳ねるたび、長い耳がゆれるその動物は、なんと、泣き虫のウサギです。  おそろしいところにはぜったいに行かないようなウサギが、どうしてきけんな坂道をのぼっているかといいますと、お月見をするからなのです。  ウサギは、お月さまを見ることが、だいすきでした。  どうしてかって?  なぜでしょうね。  ウサギにも、よくわかりません。  だけどウサギは、暗い夜のお空に光るお月さまをながめることが、とってもとってもすきでした。  誰にだって理由もなく、だいすきなものはあるのです。
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