月見坂の宇宙

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 この坂道は、月見坂(つきみざか)と呼ばれています。  そのなまえのいみを知りたくて、ウサギは勇気をふりしぼって、坂道をのぼったことがありました。  だいすきな「お月さま」のなまえがついているのですから、気になってもしかたがないというものです。  その日は、まるい満月が顔をだしていたおかげで、夜道のこわさもうすれました。  そうしてのぼった月見坂の上は、まっくらで、ふかい崖しかない、いつも通りの場所でした。  けれど、歩いてきた道をふりかえったとき、おどろくぐらいにうつくしい景色がひろがっていたのです。  ウサギのまわりぜんぶが夜空になったような光景でした。  銀色にひかるお月さまが頭上(ずじょう)さえざえ(・・・・)とかがやいておりましたし、小道に落ちている石がピカピカとひかって、まるで地上のお星さまです。  これはすごい。  ウサギはかんげきしました。  しんぞうがドキドキしました。  時間がとまってしまったようにおもえました。  それからというものウサギは、ときどきこっそり、一匹でお月さまをながめにいくのです。  誰かをさそってみようと思ったこともあるのですが、誰でもよいというわけではありません。  キツネやタヌキ、アライグマもそうですが、森には夜もへいきな動物たちがたくさんいます。  けれどかれらをさそって、いっしょにお月さまが見たいかといえば、そうではありませんでした。  だっていつもみんな、ウサギのことを泣き虫だとわらうのです。  そんなふうにいうやつらと、いっしょにお月見なんてできません。  お月見というのは「ふうりゅう」なのです。
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