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半分ともうすこしふくらんだお月さまを見たウサギが、坂道を降りて森へ戻ってきたところ、ぴちゃんと水音がきこえました。
こんな時間に誰か水を飲みにきているのでしょうか?
ですが、この近くに水飲み場はないはずです。
なんだろう。お化けかなあ。
もしもそうだったとしたら、どうしよう。
ウサギは耳を伏せてふるえます。
そっと身をひそめていると、ガサガサと草の音がきこえてきました。
そうしてウサギの目の前に、ちいさくて黒いなにかが現れました。
「なんだ、ウサギじゃないか」
「なんだはこちらのほうだよ、カメさん」
地面にぺったりとはりついて、ウサギはカメにいいました。カメはふんと顔を反らせてあきれます。
「一匹で出かけるどきょうがあるくせに、カメ一匹におびえるだなんて、あべこべなやつだな」
「それとこれとは、はなしがべつなのです」
「こんなところでなにをしていたんだ?」
「帰るところですよ」
「では、どこへ行っていたんだ?」
「お月さまを見に出かけておりました」
「月を? あのお空の月か?」
カメが頭をのばして空をあおぎます。
ウサギもつられてみあげました。
森の木々、その隙間からちらりとのぞいている光。小さな月光は、ウサギの知っている月明かりとはちがうものです。
「ここの月は遠いのですね」
ぽつりとつぶやきますと、カメはのろりと首をかしげ、小さなくちばしを見せてわらいます。
「そうだな。だけどおれの知っている月は、あれよりずっときれいだぞ」
「カメさんの知るお月さま、ですか?」
「知りたいか?」
「ぜひとも」
ウサギがうなずきますと、カメはゆっくりと反転して、来た道をもどっていきますので、ウサギはついていくことにしました。
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