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カメの歩みはのろいです。
ウサギはついつい、ぴょんと追いぬいてしまいそうになりましたが、なんとかがまんをしたものです。
そんなウサギを、カメはおかしそうにわらいます。
森にはさまざまな動物が暮らしていて、その特性もさまざまです。
けれどそれはあたりまえのことで、できないことを誰もとがめたりはしませんし、うけいれるのがふつうです。おかしなことではないのです。
カメがふだん暮らしている、小さな池にやってきました。
森のみんながあつまる池ほど大きくはないので、おおきな動物がやってくることもありません。ときおりカエルやアメンボなどがついついと泳いでいたりもしますが、たがいに干渉することもなく、自由にすごしています。
カメは水面に顔を向けて、ウサギにいいました。
「あれがおれの月さ」
怒りん坊のカメはいつだって怒っていますが、今はちょっぴり得意げです。
それはそうでしょう。
カメがうながした水面には、お月さまがゆらゆらキラキラとかがやいていたのですから。
空の見える場所にある池。
そこに映る、夜空の月。
ゆれる水面にたゆたう月は、ウサギの知っている月とはちがっていましたが、これもまたうつくしいものでした。
池の中にある水草や、どこからか飛んできた青い草、色づいた葉、赤い木の実が漂い、あるいはくるくると踊る。
夜のしじまに、ただ静かに、絶え間なくあらたな絵画をつくりつづけている。
なんとすばらしいことでしょう。
「雨が降ったあとはもっとすごいぜ。このあたりにできる水たまりぜんぶに月がみえるんだ。たくさんの月をとじこめて、おれがひとりじめだ」
池に映った月は、たしかに「池の中に月をとじこめた」ようにも見えます。
デコボコした土の上にできる水たまりだって、ちいさな池のようなものですから、きっとおなじように月をとじこめるのでしょう。
ウサギにとってお月さまは見あげるものですが、カメにとっては見おろすもの。
同じ月なのに、なんともふしぎなものです。
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