月見坂の宇宙

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「すごいです。これもとてもよいものですね!」 「そうだろうさ」 「はい、すてきなものをありがとうございます、カメさん」 「ところでウサギ」 「はい、なんでしょうか」 「いま、これ()といったが?」 「そうですね」 「ならばおまえは、ほかにもよいものを知っていると?」  問われ、ウサギはまよいました。  坂の上からみる宇宙は、ウサギのとくべつです。  誰にもおしえていない、とっておきのひみつなのです。  だけど――  ウサギは水面でゆらゆらとひかるお月さまに目をやります。  カメは、とっておきのお月さまをみせてくれました。  それはきっと、ウサギがお月さまが好きなことを知って、そうしておなじように月見をしているなかまとして、自分のお月さまをおしえてくれたにちがいないのです。  ならば、ウサギだっておなじでしょう。 「カメさんは、月見坂をのぼったことはありますか?」 「あのながい坂道だろう? ばかをいうな。あんなところ、おれの歩みでは、のぼりきるのにどれだけかかるとおもっているんだ」 「坂をのぼりきったあと、そこにはすごいものがあるのです」 「あそこにあるのは、崖だろう? 絶望(ぜつぼう)の崖しかないはずだ」 「ぜつぼう?」 「泣き虫のウサギは知らないか。あそこはずっとそう呼ばれている。だから誰も近づかない」 「そうだったのですね」 「おおかた、月見というなまえしか、あたまにはいっていなかったんだろうさ」 「めんぼくないことです」  うなだれるウサギに、カメはいいました。  泣き虫のウサギがそうまでいうのだから、そこには絶望だけではない、べつのものがあるのだろうさ、と。  うなずいたウサギは、次の晴れた日に、いっしょに月見坂をのぼる約束をしました。  どうして、あしたにしないのかって?  カエルが鳴いていましたからね。  きっともうすぐ、雨が降ってきますよ。  どうせなら、雲にかくれんぼしていないお月さまに会いたいでしょう?
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