月見坂の宇宙

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 それから何日かは雨ばかりでした。  森にはたまに、こんな日がつづきます。  雨が降って、川にたくさん水が流れ、オンボロ橋が雨粒にうたれて、こわれそうにぐらぐらとゆれます。  おおきな池の水も(にご)り、アライグマは顔をしかめます。  自慢の歌も雨音に負けてしまいますので、コマドリはちいさなくちばしを鳴らして、こっそりれんしゅうしてすごします。  動物たちがそれぞれをすごしたあと、風が雲をどこかへつれていき、灰色の空は青さをとりもどします。  それをみたウサギは、よおし、今夜カメをさそって宇宙を見にいこうと決めました。  夜も()けたころ、ウサギがカメをむかえにいきますと、池の前ではカメがまっておりました。 「ああカメさん、おそくなってすみません」 「なあに、どうせおれの足はのろい(・・・)のだ。先にでかけていようかともおもったが、黙って行くのもわるいとおもったからな」 「そうですか。それでは、いっしょにでかけましょう」  二匹はのんびりとした歩みで、月見坂へつづく小道を進みます。  森をぬけ、長い坂をのぼりはじめます。  ウサギは先へ進み、そうしてときどき立ちどまり、カメを待ったり、もどってきたりしながら、坂の上をめざします。  ずいぶん時間がたちましたが、道は半分も進んでいません。  これでは朝になってしまうかもしれません。  はじめからむりだったんだと、カメは思いました。  歩みがのろいカメと、泣き虫のくせにどこへだって走っていくウサギとでは、同じようには進んでいけないのです。
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