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「なあ、ウサギ。わるかったなぁ」
「どうしたのですかカメさん」
「やっぱりおれは、この先へは行かれない」
「時間がかかってもよいではないですか」
「月を見るのだろう? 雨が続いたあとの空だ。いつも以上にきれいに見えるはず」
「だからこそ、カメさんと見たいのです」
「おれにつきあっていては、間に合わない。おれはいつもの池で、おれの月をながめるさ」
カメがわらうと、ウサギはひっしに首をふるのです。
まったく、ごうじょうなウサギです。
カメが身体を反転させて帰ろうとしたときです。
じぶんのからだがふわりと浮きあがったことに気づいておどろいたときには、カメはウサギによって持ちあげられておりました。
短い手足が空中をかいて、わたわたと動きます。
「おい離せ、いったいなにをやっているんだ」
「わかったのですよ、カメさん。とてもよい方法ですよ」
「方法だと?」
「そうです。わたしがこうしてカメさんを抱えて、そうして坂をいっしょにのぼればよいのですよ」
いいながらもウサギは、うしろあしをけりあげて、跳躍しました。
カメのからだは、ウサギとともに空を駆けます。
ぶわりと風がやってきて、カメの頭を通りすぎていきます。
一歩二歩、びゅんと景色が変わり、うしろへとすぎさっていくのです。
「カメさん、だいじょうぶですか?」
「だめだといえば、やめるのか?」
「ごめんなさい。それはむりなのです」
ウサギのへんじに、カメはくちばしを剥いて笑いました。
「意味のないことをきくな」
「はい、すみません」
「ウサギ」
「なんでしょう、カメさん」
「これはなかなか愉快だな!」
「そうですか!」
「速いな」
「逃げるのはとくいなのです」
「それは自慢することではないとおもうぞ」
「はい、すみません」
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