236人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ
二次会
「この曲懐かしいね。あの頃思い出すわー」
川井君が歌う懐メロ曲を聴きながら、隣で明日香が呟いた。
二次会は近くのカラオケ店へ場所を移した。せっかく同窓会の二次会だからと、その当時の懐メロ縛りで曲が選択されていた。一次会からの参加者は半数に減り、私も島崎がいる妙な気疲れから一次会で帰ろうかと思ったけれど、梅原君も参加すると言うので「じゃあ一時間だけ」と言って参加を決めた。
「島崎君も三十路にしては、格好いい方だよね」
いきなり明日香が島崎の話をし始めたので、急にドキリとした。二次会のカラオケボックス内で私は奥の席に、島崎は扉前近くと席は大分離れている。梅原君は、島崎の向いの席に座っていた。
確かに何かを失った人達と比べればまだ痩せているし髪はあるし、梅原君程とは言わないまでも、背がスラッと高い方だし……。先程の法則でいくと、島崎もまだ独身なのだろうか。
「てか何? いきなり……」
「いやね、一次会で要がお手洗いに行ってた間、島崎君から随分要のこと聞かれたんだよね」
「何それ……何聞かれたの?」
「今日来てるのか? から始まって、結婚してるのかとか、今どこで働いてるのか……とか」
(そ、それって……)
「島崎君も独身なのかな? もしかして要のこと、狙ってる?」
「な、無い無い!」
そう言いながらも、どういうつもりでそんな事を訊いたのか、凄く気になった。
* * *
カラオケが始まって少し経った頃、島崎が席を立ったので、私もお手洗いへ行く振りをして後を追った。真っ直ぐな廊下を曲がり、突き当りにトイレが見える廊下に入ったところで、やっと島崎に追いつく。
「島崎」
「ん? 何だ…喜多村か」
「ねぇ。さっきのどういうつもり?」
「さっきのって?」
「私達のこと。誤魔化してたじゃない?」
「あぁ、あれ? だってお前、梅原にバラされたく無さそうだったからな」
「え?」
「自分で気づいて無いのか? あからさまなんだよ、お前」
それはそれで恥ずかしいけれど。
(待って。……ってことは?)
「私の為に黙っててくれたの?」
「何だよ。もしかして皆に言って欲しかった? 『実は俺達付き合ってました』って」
そう言って島崎は、私の傍に近づいてくる。咄嗟に後退るとそこにはすぐ壁があって、あっという間に壁際まで追い詰められた。そして島崎は更に顔を近づけて、
「俺はいいけど? 今から公表しても」
と、囁くように耳元で言った。
私が何も言えずに島崎の目をじっと見ていると、ふいに島崎の顔が離れていき、
「でも……俺達の間に何も無かったのは本当だろ?」
そう言って踵を返し、とっととトイレへ入ってしまった。
(何なの!? アイツ!!)
私はその場にヘナヘナと腰から崩れ落ちた。確かに私達の間には、数回デートへ行っただけでそれ以上の事は何も無い。しかしたった今、島崎の顔が急接近したことで、私は当時の記憶をハッキリと思い出してしまったのだ――
最初のコメントを投稿しよう!