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(は……挟まれたんですけど)
島崎と梅原君の席に挟まれ、何とも言えない居心地の悪さを感じる。そんな私に構う様子も無く、島崎はバーテンにショットガンという名のカクテルを注文した。
(それってかなりキツめのやつじゃあ……)
名前のイメージからして、そんな印象だ。液体入りの小さなグラスが島崎の前に置かれると、彼はそれを片手で蓋をするように持って、グラスごとテーブルに軽く打ち付ける。シュワシュワッと液体が一気に泡立つのを見届けてから、彼はそれを一気に飲み干した。
「ちょ……ちょっと!」
島崎は手の平を私達に向けて、『大丈夫』とアピールして見せる。
「実は俺、ニ人に謝らなきゃならない事があって来たんだ」
「謝らなきゃならない事?」
「あぁ」と答えてすぐに、島崎はバーテンに水を頼む。
(やっぱキツかったんだ!?)
受け取った水を口にしながら、彼はゆっくりと口を開いた。
「中学三年の2月14日、俺はお前の下駄箱に入ってた手紙を勝手に読んだ」
そう言った島崎の視線は、梅原君をじっと見据えていた。
(それってまさか……)
「ふ~ん」
(え? 何でそんな反応薄いの?)
「あぁ、何でコイツの反応がこんなに薄いのかって言うとだな……コイツの下駄箱に手紙が入ってたのは、そんなに珍しく無いからだ」
「そういう言い方すると、俺がモテて当然みたいな考えの奴に聞こえるだろ!」
「あぁ悪い。本当にそういう奴だと思ってた」
「島崎お前……」
本当に謝る気はあるのかと、梅原君は島崎をジロリと睨む。梅原君の言い訳(?)によると、下駄箱に手紙を置かれる事が多かったので、その都度誰かしらに見つかって、先に読まれたりしたのだという。つまり反応が薄かったのは、手紙を先に読むのは島崎だけじゃないからだと言いたかったようだ。下駄箱には個々に扉が付いてなかったので、そういう事もあり得るかなと思ってはいたが……
「ついでに言うと、コイツも俺の下駄箱に入ってた手紙を先に読んだ事がある」
「梅原君も!?」
「中学時代の男子なんて皆こんなもんだよ。バカだろ?」
梅原君は笑いながらそう言うけど、私としては笑えなかった。
(嘘でしょ……)
「それで今度は喜多村の番な。あの時、喜多村の手紙勝手に読んで悪かったと思ってる。本当にゴメン!」
島崎はそう言って、私の前で深々と頭を下げた。
「ちょっと待て。それどういう事だ? 俺の下駄箱から読んだ手紙ってまさか……」
梅原君がじっと私を見ていることに気付いたけれど、とてもそっちに振り返れる自信は無かった。恥ずかしさやらやり場の無い怒りやらで、頭が真っ白だからだ。
(これは島崎を怒ればいいの? でもあそこに手紙を置いた時点で、島崎以外の誰かに読まれた可能性もあったわけだよね?)
「でも俺、悪かったとは思ってるけど、後悔はしてない」
「「はぁ!?」」
「俺、喜多村のこと好きだったから」
「えっ!? だってあの時、『誰かと付き合ってみたかった』って……」
「嘘に……決まってんだろ」
島崎は片手で口元を覆いながら、消え入るようにそう言った。それはまるで、元々私と付き合いたかったからだと言っているようで、何だか胸が締め付けられた。
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