一次会

5/5
236人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ
「あー! 梅原遅ぇーぞ!! 島崎来たのにー!!」 「「え!?」」  川井君の無駄にデカい声が、意外な知らせと共に私達を出迎えた。さっきまでの的外れな心配(期待?)を他所に、同窓会は妙な盛り上がりを見せている。 「よぅ。久しぶり」  島崎は私の席でビールジョッキを煽っていた。川井君のように幸せと引き換えで何かを失ったようでもなく、あの頃とあまり変わらない印象のままの彼が、そこにはいた。 (仕事で来れないんじゃ無かったの!?)  まるで最初から同窓会に来ていましたと言わんばかりに、島崎はその場に溶け込んでいる。遅れての登場に、皆の興味は彼へ集中していた。 「突っ立ってないで座れば?」 「そこ……私の席だったんだけど」 「あ、そう。じゃあ、俺の膝の上にでも座る?」 (ちょっと!!!)  島崎はもう既に出来上がっているようだ。ニヤリとしながら、かいていた胡坐の膝頭をポンポンと叩いて見せる。梅原君はこっちを気にしながらも、自分の席へと戻って行った。 「冗談だよ。はい、隣」  島崎は隣にズレて私の席を空けた。 (いや、隣にも明日香が座っていたと思うんだけど……)  見回すと明日香は、別のテーブルで他の同級生と話し込んでいる。それにしても、高校進学で別れ別れになってそのまま疎遠だったというのに、島崎のこの馴れ馴れしさは一体何なのだろうか。お酒の力だけでは説明がつかないような距離感を感じた。 「そう言えばさー、俺、ずっと気になってた事があるんだけどさー」  離れたところから急に、川井君がまた無駄に大きな声でこちらに話しかけてきた。嫌な予感しかしない。 「島崎と喜多村さんて、中学の最後の方付き合って無かった? 俺、駅の改札で二人が一緒に居るの見た気がするんだよなー」 (え!? 見られてた!?)  咄嗟に、川井君の声が梅原君のところまで聞こえているのか、気になった。 (梅原君……こっち見てる)  嫌な汗がじっとりと背筋を流れる。どう返事を返すつもりなのかと、今度は島崎を振り返った。 「どうする~? もう15年も経ってるしぃ、俺達の事バラしちゃう?」  その瞬間、周りから「マジかよ!!」とか「ヒュ~!」とか「全然気づかなかった!!」という言葉が飛び交った。 (そんなこと言ったら皆にバレちゃ……) 「バーカ。何も無ぇよ。見間違えたんじゃねぇの?」  島崎はすぐにあっさりと否定した。「何だよ~!!」とか「思わせぶりなこと言いやがって!」とか「つまんね~な~」という野次が飛び交い、どうやら私達の間に何も無かった方へ、皆納得したようだった。 (何だ。やっぱり島崎も隠したかったんだ……)  ホッと胸を撫で下ろしたものの、チクリと棘のようなものが残るのも感じた。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!