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「あー! 梅原遅ぇーぞ!! 島崎来たのにー!!」
「「え!?」」
川井君の無駄にデカい声が、意外な知らせと共に私達を出迎えた。さっきまでの的外れな心配(期待?)を他所に、同窓会は妙な盛り上がりを見せている。
「よぅ。久しぶり」
島崎は私の席でビールジョッキを煽っていた。川井君のように幸せと引き換えで何かを失ったようでもなく、あの頃とあまり変わらない印象のままの彼が、そこにはいた。
(仕事で来れないんじゃ無かったの!?)
まるで最初から同窓会に来ていましたと言わんばかりに、島崎はその場に溶け込んでいる。遅れての登場に、皆の興味は彼へ集中していた。
「突っ立ってないで座れば?」
「そこ……私の席だったんだけど」
「あ、そう。じゃあ、俺の膝の上にでも座る?」
(ちょっと!!!)
島崎はもう既に出来上がっているようだ。ニヤリとしながら、かいていた胡坐の膝頭をポンポンと叩いて見せる。梅原君はこっちを気にしながらも、自分の席へと戻って行った。
「冗談だよ。はい、隣」
島崎は隣にズレて私の席を空けた。
(いや、隣にも明日香が座っていたと思うんだけど……)
見回すと明日香は、別のテーブルで他の同級生と話し込んでいる。それにしても、高校進学で別れ別れになってそのまま疎遠だったというのに、島崎のこの馴れ馴れしさは一体何なのだろうか。お酒の力だけでは説明がつかないような距離感を感じた。
「そう言えばさー、俺、ずっと気になってた事があるんだけどさー」
離れたところから急に、川井君がまた無駄に大きな声でこちらに話しかけてきた。嫌な予感しかしない。
「島崎と喜多村さんて、中学の最後の方付き合って無かった? 俺、駅の改札で二人が一緒に居るの見た気がするんだよなー」
(え!? 見られてた!?)
咄嗟に、川井君の声が梅原君のところまで聞こえているのか、気になった。
(梅原君……こっち見てる)
嫌な汗がじっとりと背筋を流れる。どう返事を返すつもりなのかと、今度は島崎を振り返った。
「どうする~? もう15年も経ってるしぃ、俺達の事バラしちゃう?」
その瞬間、周りから「マジかよ!!」とか「ヒュ~!」とか「全然気づかなかった!!」という言葉が飛び交った。
(そんなこと言ったら皆にバレちゃ……)
「バーカ。何も無ぇよ。見間違えたんじゃねぇの?」
島崎はすぐにあっさりと否定した。「何だよ~!!」とか「思わせぶりなこと言いやがって!」とか「つまんね~な~」という野次が飛び交い、どうやら私達の間に何も無かった方へ、皆納得したようだった。
(何だ。やっぱり島崎も隠したかったんだ……)
ホッと胸を撫で下ろしたものの、チクリと棘のようなものが残るのも感じた。
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