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『もしもし。』 「はい、もしもし。」 『こちら「アンデルセン」○○駅前店ですが。氷室さまでしょうか。』 「そうです・・・あ、入りましたか?」 『はい。先日ご注文いただきましたキーホルダーが本日入荷しましたので、都合の良いときにご来店ください。』 「わかりました、後ほど伺います。」 『では、お待ちしてます。』 バレンタインの日に買った、マグカップと同じシリーズのキーホルダーを、俺は彼女に内緒で注文していた。 自分の部屋の鍵をユリに渡したいと付き合ったときから考えていたが、キーホルダーと一緒に渡すという良いきっかけが出来たようだ。 彼女がどんな反応をするのか・・・きっと・・・いや絶対に喜んでくれる。俺は雑貨店からの電話を切りながら、ユリの笑顔を想像して、一人ニヤニヤしていた。 その日は仕事を早めに切り上げて駅前の雑貨店に寄り、キーホルダーを受け取って帰った。 部屋の本棚にある鍵置き場の籠に、ユリ用と自分用のキーホルダーを並べてみる。 それだけで顔が緩んでしまっている俺が、自分の中の「理想」に近づいている気がして、心地よかった。
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