4423人が本棚に入れています
本棚に追加
残業を終えて帰ると、時刻は10時を過ぎていた。
伝票を処理している時は仕事に集中していたが、帰りの電車に乗ってから頭に浮かぶのはユリのことばかりだった。
せっかくメールをくれたのに・・・
はぁ、会いたかったな・・・
電車を降りて改札への階段を上がる。
2月の空気は冷たくて、白い息を吐きながらコートのポケットへ手を突っ込んだ。 ふと、ユリの顔が頭に浮かぶ。
今頃、ユリは何をしてんのかな・・・
遅いけど、帰ったらメールくらい・・・
改札を出て、何気なく前を見た。
そこに
彼女が立っていた。
彼女はじっと動かずに俺のことを見ていた。
縮こまって両手を胸の前で合わせ、風に揺れる長い髪の隙間から赤くなった耳が覗いている。
こんな寒空の下、いつ帰るかわからない俺のことを待っていたのか?
いったい、何時間・・・
「ごめんなさい・・・どうしても会いたくて。」
その瞬間
賑やかだった街の、音という音がすべて消えた。
最初のコメントを投稿しよう!