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「ユリ?・・・・・。」
「氷室さん!」
チェーンが掛かったドアの隙間から、ユリが心配そうな顔で覗いている。
立っているのもしんどい俺は、玄関脇の壁にもたれかかるようにして彼女を見る。
「ユリ・・・どうした・・・?」
「どうしたって・・・こっちが言いたいです。」
「少し・・・熱あるから、休んでた。」
「えっ、熱?とにかくここを開けてください。」
「ダメだ。うつるから・・・帰りなさい。」
「嫌です。お願い・・・・・お願い、開けて。」
ドアに手を掛けてそう繰り返す彼女は、今にも泣き出しそうで切ない。
しかし今は、彼女を落ち着かせて帰りを促すための言葉を紡ぎだすような、気力も体力もなかった。
「はぁ・・・・・しょうがないな。」
俺は腕を伸ばしてチェーンを外すと、力なく項垂れるようにフラフラと寝室へ戻る。
ユリが部屋に入った気配を背中に感じたが、それを振り返ることなくベットまで辿り着くと、大きな溜め息とともに自分の身を横たえる。
すぐにユリが来て、ぐったりしている俺に布団をきちんと掛け直してくれた。
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