55

1/3

4424人が本棚に入れています
本棚に追加
/194ページ

55

「氷室さん、熱は?・・・」 「36度台になった。ユリのおかげ。」 俺が淹れたコーヒーを、彼女の前に置く。 「ふふっ、薬のお陰です。ちゃんと病院から出されたお薬は飲まないと。」 「はい、スンマセン。」 どっちが歳上なのか分からない会話をして、肩をすくめながらユリの隣に座った。 彼女はころころと笑い、俺はそれをじっと見つめてしまう。視線に気づいた彼女に「明日から出社する」と伝えると、今度は目を細くしてくしゃっと微笑んだ。 「ユリ・・・ここにおいで。」 俺は片方の膝を手でポンポン叩き、合図をする。 迷うことなくユリは立ち上がり、ゆっくり膝にのると両腕を俺の首にまわし、至近距離で見つめ合った。 「ユリ、昨日はありがとな。助かったよ。」 「あの・・・氷室さん。」 「ん?・・・なに?」 「昨日は勝手に押しかけてきて、ごめんなさい。」 「・・・・・。」 「お熱があるから帰るよう言われても、私ったら帰らないで・・・言うことをきかずに。いくら心配だからと言っても・・・体調があんなに悪かったのに、強引でした。」 「・・・・・。」 「氷室さんを、困らせちゃいましたね。」
/194ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4424人が本棚に入れています
本棚に追加