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約束の5分前。
彼女の自宅前に到着し、少しだけシートを倒して目を瞑る。
海で初日の出が見られたら・・・
結婚してください・・・か・・・
また、緊張してきた・・・くっそ・・・
一生に一度の大舞台に動揺している俺は、間もなく現れる彼女にそれを悟られまいと、手を強く握って心を落ち着かせていた。
人の気配がして目を開けると、ユリが助手席の窓から中を覗いている。 俺が手をヒラヒラさせて「おいで」と合図すると、ニコッと笑って車のドアを開けた。
「おはようございます。」
「はよ。」
シートを戻しながら眼鏡を外し、年末の忙しさで酷使した目を押さえた。
「明けましておめでとう。」
「おめでとうございます。」
「ユリ、こっち向いて?」
俺は会ったばかりの彼女に癒されたくて、首に手のひらをまわしグイっと引き寄せ、キスをする。
「・・・・今年、初めてのキスですね。」
唇が離れていくと、じっと俺の目を見ながらはにかんだように彼女は言った。
「ん、そうだね。・・・やっぱり、ユリに会うと疲れが吹っ飛ぶなぁ。」
「・・・ホントに?」
「ん・・・マジで。」
嬉しそうに笑うユリへ、たまらず言いたくなる。
これからプロポーズをするつもりなんだ、と。 その笑顔が一生欲しくて堪らないんだ、と。
俺はその気持ちをしずめて、ハンドルを握った。
そして 夜が明けてない海に、到着した。
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