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まだ夜は明けない。 寄せてはかえす波の音が、他の全ての音をかき消しながら繰り返している。 微かに見える白いしぶきは砂浜に吸い込まれて姿をなくし、海から吹く冬の風が潮の香りを届けてくれた。 「まだ日の出までには時間があるから、車の中にいようか。」 「はい、そうですね。」 俺の言葉に頷く助手席の彼女は、身を乗り出してフロントガラス越しに天を見上げた。 「わぁ、星がすごい・・・・・。」 「街の灯りがないからな。空気が澄んでいるしね。」 「恐いくらい・・・。」 「ん・・・・・。」 ユリはダッシュボードに頭をぶつけながら、星に夢中なようだ。微笑ましくそれを見ていると、温かく小さな手がギュッと俺の手を握った。 この愛しい存在が側にいてくれるだけで、自分をどれだけ変えてくれたのだろうか・・・ あの出逢った日から、彼女は俺にどれだけのものを与えてくれたのだろうか・・・ そんなことを考えながら、少し口を開けて目をキョロキョロさせているユリの横顔を見ていた。
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