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「渡したいものがある。」
金の縁取りがあるベルベット地の箱を開け、今の俺の精一杯の誠意を取りだし、彼女の左手薬指にそっと滑らせる。
震える指に嵌められた、光る婚約指輪。
驚いた顔で、それを見つめる彼女。
「氷室さん・・・これ・・・。」
「うちの店の宝石売り場で買ったんだ。いつでもサイズを直してくれるっていうから、標準サイズにしてもらったけど・・・大丈夫そうだね?」
「・・・・・。」
「給料3ヶ月分まではいかないけど、ちょっと頑張った。」
「・・・・・。」
声の出し方を忘れてしまったように、驚く彼女。
やっと視線が指輪から外れて、俺の顔を見る。
その瞳に語りかけるよう、ゆっくりと頷く俺。
「どうしよう・・・嬉しい。」
「受け取ってくれますか?氷室ユリさん。」
「・・・・・はい・・・・・はい。」
「ん・・・・・・・・愛してるよ・・・ユリ。」
彼女と出逢えたことは、運命だったと思う。
生まれる前から決められていた、運命。
この先の長い人生を、伴に過ごし、伴に歩き、伴に慈しむ約束をした相手。
彼女を一目見たあの時から、俺の心は決まっていたに違いない。
この人だ、と。
世界で一人だけのひとに
俺は、めぐり逢えた・・・
【 ~完~ 】
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