65

3/3

4425人が本棚に入れています
本棚に追加
/194ページ
「渡したいものがある。」 金の縁取りがあるベルベット地の箱を開け、今の俺の精一杯の誠意を取りだし、彼女の左手薬指にそっと滑らせる。 震える指に嵌められた、光る婚約指輪。 驚いた顔で、それを見つめる彼女。 「氷室さん・・・これ・・・。」 「うちの店の宝石売り場で買ったんだ。いつでもサイズを直してくれるっていうから、標準サイズにしてもらったけど・・・大丈夫そうだね?」 「・・・・・。」 「給料3ヶ月分まではいかないけど、ちょっと頑張った。」 「・・・・・。」 声の出し方を忘れてしまったように、驚く彼女。 やっと視線が指輪から外れて、俺の顔を見る。 その瞳に語りかけるよう、ゆっくりと頷く俺。 「どうしよう・・・嬉しい。」 「受け取ってくれますか?氷室ユリさん。」 「・・・・・はい・・・・・はい。」 「ん・・・・・・・・愛してるよ・・・ユリ。」 彼女と出逢えたことは、運命だったと思う。 生まれる前から決められていた、運命。 この先の長い人生を、伴に過ごし、伴に歩き、伴に慈しむ約束をした相手。 彼女を一目見たあの時から、俺の心は決まっていたに違いない。 この人だ、と。 世界で一人だけのひとに 俺は、めぐり逢えた・・・ 【 ~完~ 】
/194ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4425人が本棚に入れています
本棚に追加