甘話 ショーゴとネクタイ。

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 感度が低い咲なので、悶えるほどくすぐったくはないというのもあるだろう。  とはいえ、ずっとくすぐったいままでは申し訳ない。 「はー……」 「ん、ふふ。耳にふーってすんな。じっとしてって言われてんのに、避けちゃう」 「う、すまない」  深呼吸をして落ち着く。  うるさい心臓は諦めよう。 「咲、ネクタイを結ぼう」 「あいあい。ショーゴセンセのネクタイ講座ね。教えてちょーだいな」 「ん……そう大袈裟なことじゃないが、ちゃんと教えるぞ」  直立不動でそう言う咲に、俺はゆるりと口元を緩め、ネクタイに目を落としながら結び方を説明した。  ……咲が、教えて、か。  わからないじゃなくて、教えて、だからな。そんな些細な違いが嬉しい。  咲が心を知らない無垢だと理解してから、俺は咲を思うと泣きたくなる。  泣きたくなるぶん、愛しくなる。  なんだって教えてあげたい。  俺が咲に教わった心を、全て教えてあげたい。  こうしてセックスじゃなくとも触れ合う時間だって温かく幸福で、気分が簡単に高ぶるのだということを、教えてあげたい。  俺は咲を、愛しているのだ。 「──だろう?」 「うん」 「だから、ここを通して、こうすると……」 「うん」  自然と浮かんだ柔らかな笑みのまま、なるべく丁寧な手つきで咲の胸にネクタイの結び目を作る。  お揃いのネクタイだ。  もうすぐ結ばれる。  できれば写真を撮りたいが……、なんて浮かれたことを考えながら、キュ、と最後の仕上げを終える。 「よし、できた、っぞ……!?」  途端──ガシッ! と腕を掴まれ、チュ、と俺の髪に咲がキスをした。  それはもう、突然に。  声すら発さず、ノーモーションで素早く確保され、素早くキッス。 「さ、咲」 「ショーゴが触るから、キスしてぇなって思って。頭が一番近かった」 「いや、急になんで、こう」 「ン? 急じゃねーよ。我慢したもん。説明終わるまで待ったから」  ──だからって終わった瞬間振り返ってキスするなんて、無自覚ハンター過ぎるだろう……っ!  内心でそう言うが、顔を真っ赤にして震える俺なんて咲にとっては日常茶飯事だ。  呑気に説明をしながら俺の頭を抱えるように腕をのばし、俺の側頭部におでこを擦り付けて耳にチュ、とキスをする。 「ショーゴ、怒んないで」 「ひ、っ……」 「スーツもネクタイも、脱がせてばっかで着るの下手なんだよ」 「咲、耳が、っん……」 「ちゃんと覚えたから、な? ショーゴの声も手つきも、俺は覚えたよ。だから、怒っちゃやーよ」  どうやら咲は、キスをしたことではなくネクタイを結べないところを反省しているらしい。  というか俺はなに一つ怒ってない。  咲にキスをされて耳を唇ではむはむとされても、嬉しいだけだ。  やらしいスイッチが入りそうで困るのもあるが、結局は嬉しくて逃げるわけもなく、身じろぐこともできない。 「さ、咲、その、あんまり、はっ……あんまり舐めると、その……っ」 「うん? あぁ。俺、別に押しつけられても気にしねーから存分にシちゃって。あ、スーツだから痴漢ゴッコする? ショーゴ、痴漢するのとされるのとどっちが好き?」 「!?」  ──いつもこうな気がするが……俺の心、咲知らず。  結局咲の耳舐めで勃起してしまった俺は、咲に痴漢をされる夜を過ごしたのであった。  これはスーツの間違った使い方なので、良い子は真似しないように。 「じゃ、ショーゴ、悪い子だね」 「……咲の俺は悪い子なんだ」  了
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