添い寝男子と抱きしめ男子(2/2)

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添い寝男子と抱きしめ男子(2/2)

  SE チャイムの音   SE 学生たちが談笑する声 博美「放課後、体育館裏で待っています……か。いまどき古風な手紙ね」 結奈「どんな人かな……」 博美「まさか、行くつもり?! いつもは、手紙で返事するでしょ?」 結奈「うん……ただ、ずっと周りに頼りっきりっていうわけにもいかないでしょ。私もいろんな人と話して、人見知り治した方がいいと思うの」 博美「立派な心がけね。でもさ。結奈、知らない人だと固まるでしょ。私ついて行こうか?」 結奈「ううん、大丈夫。博美がいたらあてにしちゃうし。ひとりで行ってみるよ」 博美「ホントに大丈夫?」    SE 砂利を踏む音 結奈「約束の場所は体育館裏。この辺かな?」 笹木「春日さん。来てくれたんだ」 結奈「(おびえて)……あ、あなたは?」 笹木「話すのは、初めてかな。3年の笹木だよ。教室では何回かすれ違ったことあるんだけど」 結奈「教室……ですか?」 笹木「オレ、サッカー部なんだ」 結奈「……サッカー部。神田君の?」 笹木「(遮って)今日は、春日さんに聞きたいことがあって、来てもらったんだ」 結奈「聞きたいこと?」 笹木「春日さん。神田と付き合ってる?」 結奈「え?!」 笹木「昨日の下校時間。君と神田が、この場所にいるのを見かけたんだ。もしかしてと思って」 結奈「……神田君と、つきあうなんて」 笹木「仲良さそうに手つないでたのに?」 結奈「えっ! そ、それは」 笹木「春日さん!」 結奈「(声にならない悲鳴)っ……肩、離してください」 笹木「俺は、君のことが好きなんだ!」 結奈「(おびえて)……私のこと、好き?」 笹木「神田の彼女なら、勝ち目ないと思ったけど……」 明人「彼女ですよ」 結奈「(驚いて)神田君?!」 明人「先輩、その手どけてもらえますか」 笹木「っ痛、神田バカ力やめろ」 明人「俺たち付き合ってるんです。結奈に触れないでもらえますか」 笹木「離せよ! 彼女は、そう思ってないみたいだけど」 結奈「私……?!」 明人「結奈も俺も騒がれるの好きじゃないから、つき合ってること秘密にしてるんです。」 結奈「(息をのむ)」 明人「だから、先輩に結奈は渡しませんよ」 笹木「春日さん、本当なの?」 結奈(M)「私は頭がこんがらがって、どうしたらいいかわからなかった」 結奈「……その……先輩、ごめんなさい」 笹木「本当なの?」 明人「結奈を責めないでもらえますか」 笹木「別に困らせる気は無いんだ。本人が認めるなら、俺は帰るよ」   SE 立ち去る足音 結奈「明人君……どうして、あんな嘘。私たち付き合ってないでしょ」 明人「結奈……」 結奈「それに、なんでここに?」 明人「本庄が心配して教えてくれた。そもそも、こんな場所に来るなんて、危ないだろ。誰もいないんだぞ。結奈が、先輩の所に行ったって聞いて……居ても立ってもいられなかった」 結奈「自分でどうにかしたいって思ったの」 明人「ほら、手もこんなに冷たくなってる。怖かったんだろ?」 結奈「ごめんね。結局、迷惑かけちゃった」 明人「迷惑なんて思ってないんだ。小さい頃からずっと一緒にいただろ」 結奈「……うん」 明人「昔のこと覚えてるか? 結奈と俺と奏さんで、いつも遊んでた頃のこと」 結奈「実は、あまり……」 明人「かくれんぼで……結奈と俺でよく同じ場所に隠れた。奏さんは、オニで俺たちを探してた」   SE(回想)蝉の声 5歳の明人「この草陰なら安全だ」 5歳の結奈「明人君。お兄ちゃん、ちゃんと場所分かるかな?」 5歳の明人「結奈、見つからないようにしなきゃ。(肩を抱く)こうやって、二人でぴったりくっついてれば、奏さんだって気づかないさ」 5歳の結奈「明人君、肩がぴったり暑いよー(笑い声)きっと、この場所ならお兄ちゃんもビックリするね!」 結奈「ごめんね。ほとんど思い出せなくて」 明人「いいんだよ。思い出す必要なんてない。……ただ」 結奈「(驚いて)え? 明人くん、どうしたの……急に抱きしめるなんて」 明人「後悔したくないんだ。あの時みたいに、結奈を離さなきゃよかったなんて」 結奈「(慌てて)明人君?!」 明人「ごめん」 結奈「私いくね!」   SE 走り去る足音 結奈(M)「生まれて、初めてだった。明人君を待たずに先に帰るなんて。伝言は残してきたけど、怒ってないかな。でも、急に抱きしめられるなんて! 今日はもう、明人君の顔真っ直ぐ見れないよ!」 結奈「(溜息)」   SE 駆けてくる足音 奏「結奈!」 結奈「お兄ちゃん?」 奏「(息を整える)よかった。見つかって」 結奈「大学は? 課題の提出期限で、今日は遅くなるって言ってたでしょ?」 奏「結奈が、ひとりで帰ったって、明人から連絡があったんだ」 結奈「ご、ごめんなさい。私が勝手に。ちょっと……ひとりで考えたいことがあったから」 奏「僕の所に帰ってきてくれた。それだけで十分だよ。結奈に何もなくて良かった」 結奈「(苦笑い)もう子供じゃないんだから。大丈夫だよ」 奏「今日はずっと家にいてくれるよね」 結奈「え? わわ……お兄ちゃん、手、痛いよ。ゆっくり歩いて。転げちゃうよ」 奏「ああ、ごめんね。ちょっと慌てたみたいだ」   SE 画用紙に鉛筆を走らせる音 結奈(M)「お兄ちゃんは、ベッドで伏せている私をデッサンしていた。飽きもせず、何時間も私を見つめて。……いつからだろう、お兄ちゃんと明人君がこんな風に過保護になったのは……」   SE (回想)蝉の声   SE 足音 5歳の結奈「明人君、どこ行っちゃったんだろう? お兄ちゃんの様子見に行ったきり、帰ってこないよ」   SE ボールが跳ねる音 5歳の結奈「ボール? どこから来たのかな」   SE 草むらが揺れる 男性「お嬢ちゃん。ごめんね。オジサンのだよ。そのボール、ここまで持って来てくれるかい?」 5歳の結奈「……う、うん」 男性「おいで。おいで……こっちにおいで。ご褒美もいっぱいあげるよ」   SE 時計が地面に落ちる音 ガチャン 結奈「(悲鳴)来ないで……来ないで。私はついて行かないよ!」 奏「落ち着いて。結奈をつれてく悪い奴なんて、どこにもいないよ。大丈夫。僕が守ってあげる」 結奈「(泣いて)……お兄ちゃん」 結奈(M)「今までどうして忘れてたんだろう。小さい頃、私は公園で誘拐された。どうやって戻ってきたのかは覚えてない。ただ、わかるのはひたすら不安で寂しくて。お兄ちゃんと明人君、二人から離れられないのは、私の方なんだ」
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