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エピローグ
道の先にはパパの車がとまっていて、パパとママの懐かしい姿も見えました。
「まぁ、ピエールが見つかったのね!」
「信じられない! あんなにさがしても見つからなかったのに!」
パパとママはピエールたちに駆け寄ってくると、嬉しそうに笑うエレーヌごと、ピエールを抱きしめてくれました。この春の日差しのようにあたたかい気持ちが、心のなかから体中にひろがっていくのをピエールは感じました。
──なぁ、シャルル! これが『ふるさと』なんだな!
ピエールはシャルルにそう叫びたい気持ちになり、シャルルの姿をさがすと、エレーヌの肩ごしに、ニレの木のかたわらに立つシャルルの姿が見えました。
ピエールに向かってステッキを軽く振るシャルルの口が動き、それと同時にささやくようなシャルルの声が聞こえてきました。
「過酷な時間はもう終わりです。きみの耳と心の破れも、すぐにふさがるでしょう。けれど、きみは得難い経験をしたのですよ。冷たい雨風にさらされてこそ、愛の価値を知ることができるのですから」
その声はとても小さく、風のそよぎにもかき消されてしまうほどでしたが、ピエールの耳にはしっかりと届きました。
ピエールはシャルルを見つめ続けました。シャルル・ド・ラングは出会ったときと同じように、シルクハットをひょいと持ち上げお辞儀をすると、くるりとまわってピエールに背中を見せ、ゆらゆら揺れて立ちのぼるかげろうのなかを歩いて行きました。
ニレの木と、その幹に寄り添うように咲いている小さなスミレの花が、あたたかな春の日差しに笑っていました。
END
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