理性と本能の轍

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4  だから、『悪魔姫ルミルカ』の動画を見たのは本当に偶然だった。  金曜日の夜、ネットの検索サイトの注目ワードに『ルミルカ』があるのを見つけ、陽菜が言ってたのはこれかと、何気なクリックしたのが発端だ。  最初に目にしたのが、歌って踊る動画だったのも良くなかったと思う。  へえ、けっこう綺麗に作ってるんだ、キャラも可愛いし……そんな風に見始めて、私は瞬く間に『悪魔姫ルミルカ』に魅了された。  いや、『ルミルカ』信者となったのだ。  動画の内容は神殿風の大広間の中、紋章入り(後で知ったがルミルカの紋章)の垂れ幕の前でルミルカが歌って踊るだけのものだけだったのだけど、その魅惑的なパフォーマンスに私は虜となってしまった。  気が付けば、チャンネル登録し(信者の間では『ルミルカ教』に入信すること)、何回もリピート再生を繰り返していた。  関連するゲーム実況や『やってみた』系の動画も時間がある限り網羅した。中でも『歌ってみた』系のオリジナル楽曲にはドハマリしてヘビロテするほどだ。  特に『地獄めぐり』という楽曲は再生回数も半端無い人気曲であったが、『理性を解き放ち、本能のまま生きろ』というフレーズに私は共感した。  土日の2日間で、私は陽菜を笑えない熱狂的な信者と成り果てていた。今なら陽菜の変化の理由がわかる気がする。 「迷ったら前へ進め」「後ろを振り返るな」そう叫ぶ『ルミルカ』のメッセージは単純で前向きだ。  『ルミルカ』の教えは、『人は原罪を抱えているので、全員皆等しく地獄に落ちる。だから現世で何をやっても変わりない』というものであり、失敗しても嫌われても死後には関係ないと言い切っている。  つまり、『どうせ地獄に落ちるなら、迷わず自分の生きたいように生きる』というのが教義の本質と言って良かった。  チャンネル登録数の急激な伸びを見ても、その教えが若い世代に受け入れられたのは明白だった。
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