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「陽菜、ありがとう!」
月曜の朝、私は陽菜に会った早々、お礼を言った。
「へ? どうしたの悠衣ちゃん」
突然のお礼に目を丸くしている陽菜に、私はスマホの待ち受け画面を見せる。
「『ルミルカ』の紋章……」
そう、ルミルカ信者の間の共通の認識として、スマホの待ち受け画面を『ルミルカ』の紋章にすることを義務付けていた。
これなら、スマホを見れば信者かどうか見分けがつく。
「悠衣ちゃん……もしかして入信したの?」
「うん、陽菜のおかげでね」
「やったあ!これからは同じ信者として布教していこうね」
輝くような陽菜の笑顔に、私は今までの自分の感情が急に恥ずかしくなった。
「ごめん、陽菜。私ね、ずっと陽菜のこと馬鹿にしてたんだ」
「うん、知ってた」
私が驚くと、陽菜は笑顔のまま答えた。
「でも、そんなの、もうどうでもいいよ。悠衣ちゃん、生まれ変わったんだから」
「許してくれるの?」
「もちろん」
「あ、ありがとう……あの、陽菜。陽菜も私のこと、悠衣って呼んでくれる?」
「……うん、これからもよろしくね、悠衣」
それからの私と陽菜は『悪魔姫ルミルカ』を通じて、とても仲良くなった。
学校では例の派手系女子達に正直に意見して、いじめの対象になりかけたが、他の信者達との結束もあり事なきを得た。むしろ、彼女達の方が居心地が悪くなったと言っていい。
実際、公私とも順調で『悪魔姫ルミルカ』に感謝の祈りを捧げずには居られない毎日だ。
今日も陽菜や他の信者と一緒に『悪魔姫ルミルカ』生誕記念祭の会場に訪れていた。
ステージの大型スクリーンに『ルミルカ』が立体映像で映し出される仕掛けで、普通のライブイベントと遜色ない仕上がりになっている。
「ねえ、陽菜」
「なあに、悠衣?」
すでに興奮気味の陽菜が私に振り返る。
「前から気になってたんだけど、動画をアップしている『三休法師』って何者なの?」
大体、『ルミルカ』のビジュアルって西洋悪魔なのに、その作成者名が仏教系っていうのは、どういうミスマッチなの? と常々感じていた。
名前だって、一休禅師と三蔵法師の掛け合わせ(だろうという信者の間の推測)は決してセンスがいいとは言い難い。
「さあ、発表当初はIТ技術者と声優の卵が組んで作ってるんじゃないかって騒がれてたけど、正体は謎だよ」
「どこかの企業が関わってるのかな?」
「どうだろう……今のイベント規模を考えたら企業が噛んでると思うけど、私としては本当に地獄から配信してるって信じたいところかな」
「陽菜、純真(ぴゅあ)だね~。愛いヤツめ」
私が抱きしめると、顔を赤くして抵抗する。
「悠衣、悠衣!そろそろ始まるから!」
照明が暗転して、客席は暗くなりステージが明るくなった。
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