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「は?」
私は呆気に取られて、変な声を出してしまう。
が、すぐに我に返って睨みつける。
「馬鹿にするのもいい加減にしてください。嘘をつくなら、もっとマシな嘘ついたら?」
私の蔑んだ視線に『三休法師』を名乗る男は困ったような顔になる。
「弱ったな、本物って証明するものが何もないや」
まあ、いいかと呟いた彼はくすりと笑って続ける。
「もうすぐ審判の日が近い。自分の内なる声を信じて戦うんだ、負けるな」
「え?」
「誰にも内緒だよ……」
唐突に意味不明な言葉を残すと彼は退場しようとする観客の波に紛れた。
「いったい、何なのよ?」
止める間もなく姿を消した彼に私は口を尖らす。
けど、その疑問はすぐに氷解した。
「【みんな~!今日のライブ来てくれた~?】」
その夜の『ルミルカ』の動画配信だ。
「【今夜はみんなに大事な話があるよ~!】」
『ルミルカ』の言葉にコメントが弾幕のように表示される。大半は大事な話の内容に纏わるものだ。
「【いい?じゃあ言うよ。もうすくね、審判の日が来るんだ。だから、みんな自分の内なる声を信じて戦おう。負けちゃだめだよ!】」
彼は本物だった。
翌日の月曜日、私は興奮を抑えきれず陽菜を待ちわびていた。
あの『三休法師』に出会ったことを、直接伝えたくて連絡しないでいたからだ。
けれど、その日の陽菜の顔を見たら、冷や水を浴びさせられたように浮かれた気持ちが萎むのがわかる。
「陽菜、おはよ……どうしたの。何かあった?」
それぐらい陽菜の表情は酷かったのだ。
生気がないぐらい真っ青な顔で気だるそうな様子はただ事ではなかった。
「……おはよ、悠衣。大丈夫、何でもないから」
とても何でもないように見えなかったけど、大丈夫だからと繰り返す陽菜にそれ以上は訊けなかった。
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