理性と本能の轍

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8  その頃だろうか、歯車が狂い始めたのは……。  最初はネット民同士の些細な応酬からだった。  『ルミルカ』チャンネルの登録数が順調に増え、アニメファンだけではなく一般にも認知され始めたことで、大っぴらに『ルミルカ』を誹謗中傷する輩が現れ始めたのだ。  聞くに堪えない罵詈雑言や『ルミルカ』を貶める動画も投稿された。  それに対し、『ルミルカ』信者は即座に、また過激な反応を見せる。投稿者の身元特定や過去の発言のまとめが徹底的に行われ、住所や勤務先などのリアル情報の流出が相次いだ。  執拗な脅しや殺害予告もあり、刑事事件に発展した例も一件二件ではなかったようだ。  『ルミルカ』の急激な人気上昇と相まって、その信者の攻撃性が度々問題視される事態となった。しかし、その前後に起こった何人かの若者が引き起こした凶悪事件にニュース番組のリソースを奪われ、世間に認識されるに至らなかったのだ。 『もうこれは、あおり運転の域を超えていますね。執拗に追い回し追突を繰り返した挙句、被害者を死亡させた柴谷容疑者は殺人罪が適当に決まってます』  ニュース番組のコメンテーターは怒りを露(あらわ)に断言していた。  それに対し、司会者は冷静にコメントする。 『警察は危険運転罪での起訴を視野に入れて捜査しているようですが、一方で弁護人は精神鑑定の必要性を問いているようです』 『精神鑑定?』 『ええ、逮捕時に意味不明な言葉を叫んでいたそうです』 『最近、そういう事件が多くありませんか』 『そんな感じですね』   結局、番組は極度のストレス社会と教育制度の歪(ゆがみ)が若者を狂わせていると結論付けて終わった。  私は、そんな朝の番組を思い出しながら、陽菜の席を見つめる。  ここしばらく、陽菜はずっと休んでいた。 (陽菜、どうしたんだろう?病気、長引いてるのかな)  お見舞いに行かなきゃと思いながら、私は授業に集中した。
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