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「どうして」
「分かります」
笑いもせず、迷いもなく見つめられて、あたしは何も言えなくなって、目の前のパンケーキにフォークを入れた。
口に入れると、ふわふわして甘くて幸せな味がした。
「どうっすか」
「……あんたみたいな味がする」
彼はきょとんとして、それから吹き出して笑った。
「俺、どんな味すか。ちょっとくださいよ」
「自分の食べなさいよ。同じ生地なんだから」
「それが食べたいんすけど」
顎の下に手を組んでもの欲しげに見つめる彼に、あたしは自分のを少しだけ切り分けた。
「……サンキュです」
「ん」
いくら食べても、あたしたちの中で月が欠けることはもう、無い。
『パンケーキの上る空』了
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