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 三年前、伯母が持ってきたお見合い写真の中に、拓人の写真を見つけて驚いた。    拓人は同じ高校の一年先輩だった。  サッカー部で活躍し、生徒会にも入っていたから、有名人だった。  おまけに顔もいいとくれば人気も高くなりそうなものだ。  ところが、まじめすぎておもしろくない。 いや、かえってそこがおもしろいなどと、拓人の評判は様々だった。  私は本を読むふりをしながら、図書室の窓から練習を見つめていた。  告白しようなどと、大それたことは、考えたことも無かった。  ただ遠くから見ているだけで幸せだった。  雪が解け始め、春になるというのに、憧れの先輩が卒業してしまうと思うと、胸が痛くなるほど淋しかった。  先輩の姿を思い浮かべるだけで、知らずに涙がこぼれるようになった。  毎日学校に通ったのは先輩がいたからだ。  その気持ちを伝えたいと思った。   だからこれは……感謝状なの。  でも、先輩とは何の接点も無い。  先輩の前に立つ勇気など、なかなか湧いてこなかった。  卒業式は、思うよりあっと言う間に終わってしまう。  諦めの気持ちが、心にじわじわと陣地を広げ始めた。  ほんとにいいの? 後悔するよ。  学生服であふれる人ごみの中に、先輩をみつけた。  あと少しで、校門から出てしまう。    いや! 待って!  その後ろ姿を見失いそうになりながら、人にぶつかりながら、追いかけた。 「あ……と、時松先輩!」  先輩は立ち止まり、こちらを振り向いた。 「呼んだのは、君?」 「は、はい! そ、卒業おめでとうございます。あの、これ読んでください!」  必死の思いで手紙を渡した。 「あ……ありがとう」  それは確かに私だけに掛けられた言葉だった。  それだけで報われた。
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