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トントンと、ドアがノックされる。
「唯子、どうした? 中に居るんだろ?」
慌てて涙をぬぐう。深呼吸を一つする。
「ごめんなさい。ちょっと下痢気味。お腹出して寝てたかなあ」
一瞬間があった。
「そっか。調子悪いなら、弁当はいいから。朝ご飯だけ食べられたら助かるけど」
「はい、今行く」
立ち上がり、トイレットペーパーを手にぐるぐる巻く。
それで涙をふいて鼻もかむ。
レバーを引くと、泣いた私の残骸は渦にまかれて流れていった。
バイバイ。
何か状況が変わるわけではないけど、とりあえず応急処置だ。
私は頬をぴしゃりとたたくと、トイレから出た。
時計を見ると、本当に時間が無い。
鍋に水を張って、火をつける。お味噌汁は作らないといけない。
具はすぐ火の通る物にする。
「あちっ!」
味見をすると、やけどしそうに熱い。
おわんによそい、拓人のランチョンマットに置く。少し冷めるまで、呼ばないでおこう。
他の事をしながら気持ちを整える。
拓人に告げないといけない。
言いあぐねてる分だけ、期待させる。サラッと。結果だけサラッと。
ああ、カレンダーにバッテンをつけることにしようかな。
それはあまりにも無責任だ。きちんと私の口から告げないと。
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