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実家の母は昔気質だ。眉をひそめて、こんなこと、言わせないでよと言いながら言っていた。
「結婚式にお腹の大きいのはみっともないから、マナーのあるおつき合いをしてちょうだいよ」
妹の亜里沙は、はははと笑っていた。
「時松さんまじめだから、そういうこと心配しなくても大丈夫よお。もしかして、結婚式まで手も握らなかったりして!」
その亜里沙は去年、同僚の日高さんと結婚した。妊娠がわかり、お腹が目立たなくなる前に式を挙げた。
「今はできちゃった結婚って言うんじゃないのよ。授かり婚だからね」
そして今は、実家に住んでいる。日高さんは「マスオさん」している。亜里沙のつわりがひどくて何もできなくなったからだ。今は八ヵ月だ。
「吐くつわりがおさまったら、次は食べたくて。食べづわりっていうのもあるんだって」
「体重増えすぎるとダメなんじゃないの」
「わかってるんだけどねー」
満月みたいな顔になっていた。そして、もう一つお月様を抱えたようなお腹をしていた。
母は世話を焼きながらも嬉しそうだった。
「唯子にあんなこと言わなくても良かったわね。子どもができれば順番なんてどうだってね。今じゃよくある話だし」
母はそう思うことで、亜里沙の状況を受け入れ、自分のこだわりに折り合いをつけたのだ。
「唯子も早くできないかしらね。いとこで年が近いと楽しいだろうし」
「そうね」
私は早く自分の家に帰りたかった。
自分の家?
そうか、実家はもう自分の家じゃないのかと思った。
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