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勇者一行の再会
とあるコーヒーショップにて。春と言うには暑すぎる気候の中、アイスカフェラテとカフェインレスコーヒーを頼んだ女二人連れがいた。
古くからの友人同士という雰囲気の二人だが、久々に会った近況報告でも遊びに出た際の休憩でもなさそうな緊迫した様子だ。飲み物にも手をつけず、無言で睨みあう。
「挨拶や読み合いはあたしには無理だ。すぐさま本題に入るぞ」
そう切り出したのは巻髪で派手な格好をした、いろいろと大きい女だ。おしとやかとは言えない様子でアイスカフェラテを一口飲む。
「ええ、どうぞ。私も貴方に季節の挨拶や空気の読み合いなどは期待してません」
そう答えたのはストレートヘアの落ち着いた格好をした、いろいろと細い女だ。静かにコーヒーに砂糖だけを入れて静かに混ぜる。
「僧侶。魔法使いが抜け駆けして勇者とラブホ街にいたってのはマジなのか?」
「マジです。証拠写真もあります。今戦士さんのスマホに送信しますので」
震える戦士。冷静にスマホを操作する僧侶。
それに魔法使いや勇者という単語。コーヒーショップ内の客が聞けばどんな中二病だと思うことだろう。企業戦士や三十歳以上でなれる魔法使いだという話でもない。彼らの前世での事だ。
前世、こことは別の世界で、彼らは魔王を倒す勇者一行だった。見事魔王は倒せたものの、その後彼らは悲惨な死を迎えた。しかしそれを憂いたのは勇者に加護を与えた女神である。
女神は哀れな勇者一行を、この平和な社会にて前世でのスキルと記憶をもたせたまま、生まれ変わらせたのだった。
前世での経験があれば経験位が違う。得たスキルだってある。どんな世界であってもうまく立ち回れる。そして自分達がせっかくがんばったのに掴めなかった平和な人生を送れるように、という女神の配慮だ。しかし勇者以外には未練があった。それは平和な一生を引き換えにしてでもほしいものだ。
勇者である。
戦士、僧侶、魔法使いの三名は前世から勇者に恋をしていた。しかし魔王討伐中には色恋にうつつをぬかせず、まじめに取り組んで、魔王討伐後に死んでしまった。なので彼女達は転生してもこの平和な世界で勇者を探している。三人で勇者捜索について報告しあう定例会も行う程だ。
当然抜け駆けは無し。しかし魔法使いが抜け駆けをしたのではないかと、戦士と僧侶は集まった次第である。
スマホに届いたその証拠写真を見て、戦士は胸がざわりと騒いだ。
「おおっ、この爽やか系イケメンでありながら服を着ててもわかるほどの鍛えられた体、間違いない勇者だ!」
「ええ、この女神さえもたらしこめそうなオーラの男性は間違いなく勇者さんです」
「……で、この隣にいる奴が間違いなく魔法使いだな。例の女子校の制服着ていやがるし」
「ええ、この勇者と腕を組んでいるセーラー服姿の女性は間違いなく魔法使いさんです」
写真は僧侶が尾行して撮ったものだ。僧侶のスキル、敵エンカウント回避。自らの気配を消し、敵に気付かれないというスキルである。それを使えば対象に不審に思われるような距離まで近付いても気付かれない。
その写真で勇者と共に写る魔法使いは、僧侶達より転生が遅れていたため勇者たちより若く、現在は高校生の姿だ。少し頼りない雰囲気が可愛らしくて魅力的な少女と言える。もちろん魔法使いも勇者が好きで、戦士僧侶と共に勇者を探していたはずだった。
「つまり、魔法使いは抜け駆けしてとっくに勇者を見つけていたということか!」
「はい。この間の定例会では、彼女はなんの手がかりを得ていないと話していたところだというのに」
「あいつ、嘘ついてたのか!あたしらを騙すために!」
戦士は怒りを抑えることなくあらわにした。彼女達三人は勇者を探すために協定を結んでいた。皆で勇者を探し、少しでも手がかりを見つけたら他二人にも報告する。そしてもし会えるのなら三人一緒に会う。そこからは自由だが、勇者が三人でと出会うまでは抜け駆け禁止である。
なのに定例会や今まで魔法使いは何も言わなかったし、こうして会っていた。それはもちろん勇者を独り占めするためだ。
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