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場所を変えて、先程のこじんまりとしたカフェに女三人は移った。
ソファ席には戦士と僧侶。椅子席には魔法使いが座る。魔法使いにとっては蛇に睨まれた蛙の心境だった。
前世で『魔法使いは下がってな!』とかばってくれた頼もしい戦士はもういない。前世で『大丈夫ですよ、こんな怪我すぐに治りますから』と慰めてくれた優しい僧侶ももういない。
それも魔法使いが抜け駆けをしてしまったからだ。
「ごめんなさい!」
何か恨み言を言われる前に、魔法使いは謝ることにした。額がテーブルにつくほどだ。そしてさらに二人が口を挟む前に続ける。
「偶然だったの! それでゆうくんがゲスい事に気づいて、わたし、二人に言えなくて……」
「言えない?」
僧侶は怒りをいったん抑えて聞き返す。確かに勇者はゲスかった。悪いことをしている訳ではないが、それでも前世の正義感あふれる彼とは大きく変わってしまった。しかしそれが魔法使いの抜け駆けした理由とどう関係があるのか。
「せんちゃんは戦闘スキルがあるし、そうちゃんは補助スキルがあるでしょ?ゆうくんが欲しがりそうな、探偵の仕事に役立つスキルが」
「あ……」
「だから絶対に二人の事は言えなかったの。言えば、きっと利用されるから」
僧侶はエンカウント率低下スキルを羨ましがられた事を思い出す。確かに尾行に便利なスキルであるため、存在を知られれば勇者に利用された事だろう。戦士も同様だ。戦士のスキルは攻撃系だが、探偵という危なっかしい仕事をしていればいくらでも使いみちはある。
そんなスキルを求めている勇者が二人に会えば、利用されると容易に想像がついた。だから魔法使いは勇者と再会できた事は二人には言えなかったし、二人の事を勇者に言えなかったという。
「けどそんなん勝手だな。あたしらに聞いてもないのに判断してどうする。あたしの事なんだ。利用されるもされないも、あたしに判断させろ」
まっとうな戦士の反応だった。魔法使いに怒ってはいる。しかしそれは一人で抱え込んで考えた事に対してだ。魔法使いの行動は二人の意思を無視して自分だけ悩んでいた。
魔法使いは涙で瞳を潤ませた。
「それは……二人共、すごくゆうくんの事好きだから。絶対利用されたがると思ったの。でもゆうくんは今まともじゃないから。もし二人をゆうくんに会わせるとしたら、まともになってからって決めてたの」
「……確かに今の勇者さんはまともではありませんね。そして私達も、多少なら利用されるはずです。彼を甘やかしてよくない事になるでしょうね」
勇者はゲスくなった。高潔で人類の代表としてふさわしかった彼と比べれば今の彼はまともではない。そしてそうなった原因には僧侶も思い当たる事がある。
「ゆうくんは、前世で助けた人達に裏切られたからあんなになったと思うの。私にはわかるの。私も向こうの人達を呪い殺してしまったから……」
魔法使いは細い肩を震わせて小さく泣き出した。魔王討伐後に守った人々に裏切られた。それは性格が歪んで当然の事だ。魔法使いだって今はそうでもないが歪んでいたし、僧侶だって病んでしまった。しかし立ち直れた。一方勇者はまだ立ち直れていない。
「わたしは呪い殺してすかっとしたけど、ゆうくんはそうじゃない。あの人は誠実だからこそ誰にも当たれずに辛いんだと思うの」
「たしかにな。あたしはわりとすぐ死んだしすぐ現世で仲間を見つける事ができた。だからまだまともだけど、勇者はそうじゃなかった」
「私も皆さんと交流できたから落ち着いていたのでしょう。魔法使いさん、だから貴方は勇者さんのそばにいようと決めたのですね?」
魔法使いは涙をハンカチで拭いながらこくんと頷いた。背伸びした化粧は台無しになりつつあった。
僧侶の言うとおり、魔法使いはいつか勇者が元通りになると信じて、だからほか二人を遠ざけて自分だけはそばにいようとしたのだろう。魔法使いのスキルならば使いどころが難しく、そこまで利用はされない。今の勇者を増長させる事もない。
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