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「勇者さんは魔王を倒したことにより国から恐れられたのです。こんな戦闘力や知名度など強い人間が民衆を率いて反乱を起こしたら、なんて王は不安に思い、消しておきたかったのでしょう」
「腐ってやがるな。魔王退治に盛り立てて利用するだけ利用して、いらなくなったら怖いからって始末するのか」
「詳しくは知りませんが、勇者さんの故郷の人間は脅されたそうです。勇者さんの食事に毒を盛らないと重税を課す、と。結局口封じのために村はその後焼かれましたが」
「ひでぇ話だ。でも、おかげであたしは次に進めた。村人の生き残りからその知らせを聞いて、よその国に逃げたんだ。あたし達だって殺されかねないし、外の国なら勇者暗殺の事を正しく罰してくれるって信じてたからな」
戦士も故郷に帰っていたが、彼女は毒殺されなかった。しかしそれも時間の問題であるし、勇者暗殺を知り許せなかったので、助けを求め国を脱出することにした。しかしそれはうまく行かなかった。
「あの時にあたしが毒キノコを食わなきゃ隣国にたどり着けたってのに……!」
「ばかですか」
勇者の死因から一転、急に間抜けな死因となった。しかしそれも理由はある。急いで国を出た戦士だが、そのためろくな備えがなかったのだ。手持ちの食料では足りず、自給自足で食料を探す。そして食べ慣れたキノコを見つけたが、植物とは生える場所により特性が変わるものだ。毒キノコにあたり彼女は死んだ。
「……まぁ、ある意味では戦士さんの死は良かったとも思えます。例え隣国に逃げ切れたとしても戦争が起きますから」
「戦争?なんでだよ。魔王を倒した勇者が殺されたってのに、なんで戦争なんかするんだ?」
「魔王という強大な敵がいなくなって、隣国は攻めいる理由を求めていたからです。そんな中戦士さんが助けを求めれば勇者暗殺した国をとっちめると大義名分ができてしまいます。勇者は英雄ですから、そんな人が殺されたのなら色んな人が怒って協力してくれます」
魔王という強大な敵に対抗するため、ほとんどの国は協力していた。実際魔王がいる間は人間同士で戦争はできなかった。疲労した戦争後に魔王軍から攻撃をされては耐えられないからだ。しかし魔王がいなくなればその心配はない。戦争ができるようになってしまう。
もし戦士が毒キノコに倒れず隣国にたどり着けていれば、隣国は『勇者の仇討ちだ』と戦争をしかける。誰もが勇者に同情し、もしくは場の空気を読み、その仇討ちに協力するだろう。そうして戦争が起こる。
だから戦士が途中で力尽きることて戦争は回避できた。それはある意味では救いだ。
「私はお二人みたいにひどい死に方をしてはいません。教会で幽閉されていました。私には戦闘力がないし、治癒の能力があるため生かされていたのでしょう」
「つまり閉じ込められていたって事だよな。まぁ、よかったんじゃないか?痛い思いはしなかったんだから」
「はい。私は皆さんよりもずっと長生きできました。とはいえ、幽閉生活で病んで三十までしか生きられませんでしたが」
こんな事でも僧侶は静かに語って、戦士は言葉を失う。治癒の奇跡が使える存在として僧侶は命だけは保証されていたらしい。権力者が病気や怪我をした際に治療するためだけに置かれていたという。
ろくな自由もなく、話相手もいない生活で僧侶は病んだ。そしてパーティ内では長生きだが短い一生を終えたという。彼女がパーティーメンバーの最期に詳しいのもそのためだ。
「まあ、治癒を求めてやってきた権力者には治癒ついでに脳をいじって死なない痴呆にしておきました。こんな国なんて痴呆老人に滅ぼされればいいと思ったので」
「僧侶ってそういうとこあるよな……」
治癒を求めるのは権力者。ならばその権力者を使い物にならない、もしくは足手まといにする。そうすればその権力者の部下達は非常に苦労させられる、という僧侶なりの嫌がらせだ。この僧侶は清楚な見た目に反して腹黒いのだ。
「幽閉中、魔法使いの末路も耳に届きました。彼女が一番ひどい、勇者を殺した魔女として火あぶりの刑となったのですから」
何度聞いた話であっても戦士は顔色を青くした。魔法使いが一番ひどい死に方をした。英雄としてではなく、濡れ衣を着せられ、人外とされて残虐な刑を与えられたのだ。ただ逆らわれては困るからという理由で。
「その死に方のせいで、魔法使いは転生が遅れたってのか……」
「ええ」
「きっと、魂がひどく傷がついたんだろうな……転生には魂が必要だって話だから」
「あ、いえ、魔法使いさんは死後、火あぶりに関わった人間を一人一人呪い殺したそうなので。女神が転生をさせようとしても『まだ呪い殺し足りない』と断って時間がかかっていただけです。だいたい百年くらい呪い殺していたそうですから」
より恐ろしいと戦士はぞっとした。十年近くの転生ラグは歪んだ魔法使いを説得するまでの時間だったという。
これを聞くと魔法使い一人だけ若くても許せる気がした。
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