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「まぁ、魔法使いが若いのも納得がいったし同情もできる。けど抜け駆けは別だ」
「ですね。問い詰めるまではしなくても、私達も勇者さんに会うのが先です。会わない事にはどうしようもない」
「じゃあ会おうぜ。僧侶、勇者の居場所はわかるか?」
「いいえ。ですが魔法使いさんの行動パターンは把握しています。それを尾行すれば勇者さんに会えるはずです。エンカウント低下のスキルをかければ確実でしょう」
そもそもことの発端は僧侶がいかがわしい街で魔法使いを発見し声をかけようとした所で勇者らしき人を発見した事だ。今回もそのように尾行をすればいつか勇者にも会えるだろう。
スマホを操作し何かを打ち込む僧侶を、戦士は頼もしく思う。彼女は勤勉で思慮深く、前世のスキルもうまく使いこなしている。戦士だけではそこまで考えがいたらないので心強い仲間だった。
「いいなぁ、あたしもエンカウント低下とかそういうスキルが欲しかった。あたしなんか敵に物理攻撃加えるスキルとかしかないし」
「戦士さんのスキルは痴漢相手には便利ではないですか。私のストーカーだって倒してくれましたし」
「や、あれ手加減するの難しいんだわ。この平和な世界じゃ物理攻撃スキルなんて意味ないし。使ったのバレたらえらいことになるもん」
「物理攻撃スキルならば本人の怪力だとかで説明がついていいと思うのですがね。殺してしまったらどうしようもありませんか。私もエンカウント低下くらいならバレませんが、治癒は場合によっては使えませんし」
転生する際に彼女達は前世の記憶とスキルを持っていた。この人生が少しでも満喫できるように、という女神の配慮だろう。
しかし戦士のスキルは物理攻撃のものが多い。それは相手の命を奪うものなので、あまり使いみちがなかった。かなり加減をしなければ人間相手だと殺してしまう。
一方僧侶は戦闘補助のスキルが多い。ステータスアップならこの世界でもバレなく使えるが、重傷を回復するまでのことをしては流石に怪しまれる。
「そういえば、私は五歳の時腕を骨折しましたけど、あまりの痛さに治癒スキル使っちゃいましたね。それもレントゲン撮ったあとに」
「うわ、それは親も医者も驚いただろ?」
「それはもう。なんとか回復が早いということでごまかしはしましたが」
「でもやっぱ羨ましーよ。この時代じゃなによりステータスアップが効くんだもんな」
「前世で頑張ったおかげてしょうね。戦士さんはもちろん魔法使いさんも勇者さんも補助スキルは使えなかったのですから」
僧侶は戦闘力皆無だが、その分補助スキルに優れている。それもパーティメンバーが補助を不得意だったためだ。彼らの基本の戦法は勇者が切り込み隙を作り、戦士が大ダメージを与え時間を稼いで、その間に魔法使いが長い詠唱の魔法を使うというもの。そこに僧侶が補助して様々な敵に対応した攻撃になるようにする。補助を誰も出来なかったからできるようになっただけだと僧侶は思う。
「魔法使いさんも補助ができるはずなのですが、性格的に向いていないのでしょうね。攻撃魔法は強いのですがそれしか使えません」
「確か、あいつは火とか水とかを操れるんだっけ。あいつもこの世界じゃ役に立てないスキルだな」
「一方勇者さんも補助はできるのですが、彼は勇者だからか男性だからか一番危険な役目を引き受けてくれてました。だから盾役が主で、後衛になることがなく、盾スキル以外は使い慣れてはいない様子でした」
「ほんっと、勇者っていい男だよな……」
うっとりと戦士は戦いの記憶を思い出す。戦士だって女とはいえ戦う事を生業に選んだ覚悟はあった。それでも勇者は彼女達が無意味に傷つく事を許さない。一番危険な役目はいつだって彼が引き受けてくれたのだ。そのため彼は彼に備わっていた補助スキルを使わず防御スキルばかりを使った。
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