23人が本棚に入れています
本棚に追加
■■■
魔法使いは駅のトイレで学校の制服から大人っぽい私服に着替える。そして慣れない化粧をして、携帯電話片手にそのまま駅で待機した。
連絡を待つのは勇者だ。戦士や僧侶に抜け駆けするようなかたちで、魔法使いは勇者と偶然再会した。
弁解したいが、本当に偶然だ。そしてすぐさま戦士と僧侶にも伝えるつもりだった。しかしそうはいかない事情がある。勇者は彼女達のよく知る勇者ではなくなったのだ。
魔法使いは人の視線を浴びている気がして、己の格好を改めて見た。
まつげがやたら主張されているが丸い瞳に、赤く塗った唇はまだまだ幼い。それにいくら化粧をしても繊細な美貌を持つ僧侶には敵わない。
タイトなニットにミニスカートで体のラインを出しても豊満な体付きの戦士には敵わない。慣れないヒールはすでに足が痛かった。
大人っぽくしたつもりだが、まだ子供に見えてしまうのかもしれない。この前なんて制服姿で勇者に会って、注意をされてしまった。『今度は大人っぽい格好で来てくれ』と。当然だ。この世界では大人が子供と歩いているだけでよからぬことで疑われてしまう。
もしも勇者がセーラー服姿の自分一緒に歩いて、警察などに見つかり犯罪者扱いされてはいけない。だから魔法使いは精一杯大人の振りをしてここに立っている。
勇者からの連絡はまだない。それまでここで待機する約束だ。ここからは彼の都合優先なのだから。
「ゆうくんは、私がなんとかしなきゃ……」
例え利用されているとしても、魔法使いは勇者が好きだし尽くしたい。しかし本当に今の彼に尽くすのは正しいことなのかと悩むこともある。だから魔法使いは戦士や僧侶にもこの状況を教えられなかった。
その勇者からマークのついた地図が送られてきた。メッセージは他にないが、ここに来いとの事だ。地図を確認して、魔法使いはいかがわしい街へと進んだ。
最初のコメントを投稿しよう!