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魔法使いが駅で大人を装い待っている少し前のこと。
魔法使いの通う高校は有名私立女子校である。戦士と僧侶はその高校が授業を終えた頃に待ち伏せし、魔法使いを尾行した。
黒のセーラー服に大荷物。セミロングの髪は下ろしたまま。その表情はどこか切羽つまったような雰囲気がある。そして魔法使いは今日も一人である。というか、彼女が同年代の友達と一緒にいるところなど戦士は見たことがない。
「当たりですね。魔法使いさんは今日、勇者さんと会うはずです」
「わかるのか?」
「大荷物ですから。学校の荷物の他に、私服を持ってきた。そして駅のトイレかどこかで着替えるつもりでしょう」
「なんで私服に? あいつの制服姿めちゃくちゃかわいいじゃん。あたしが男なら会心の一撃くらってるわ」
「彼女は一度制服で勇者さんに会ってます。それでも勇者さんに会心の一撃を与えられなかったし、制服姿で一緒にいたら勇者さんが社会的な痛恨の一撃くらってしまいます」
前世で数々の魔物の弱点を見破ってきた僧侶はその鋭い洞察力で言い当てる。
多分勇者は女子高生の制服姿に即死するようなタイプではない。僧侶が前に尾行したときだって二人はホテル街にいながらもどこにも入らず別々に帰ってしまった。
二人のどちらかが怖気づいたのか、そもそも二人はただの知り合いとしてただホテル街に迷い込んだだけなのか。まだわからないがそこまで絶望的な状況ではない。
二人は魔法使いに距離を詰める。かなり近くになるが、エンカウント低下スキルのおかげで魔法使いには気付く様子はない。
そして駅に着き、自宅とは別方向の電車に乗る彼女を見て二人は確信した。やはり勇者と会うつもりだ。
「あの写真と同じ街に行こうとしてんのか?」
「いえ、違うようです。ただ、彼女がこれから行こうとする所もホテルの多い所ですが」
少なくとも高校生が一人で行くところではない。そしてその駅のトイレで魔法使いは着替えて出てきた。この流れも僧侶の予想した通りだ。
「ぐっ……可愛いじゃねぇか」
「ええ、大人びた風を装いながらもどこか垢抜けない所が可愛い」
二人は強敵と出会ったかのように着替え終えた魔法使いを褒め称えた。魔法使いは前世から頼りなく、現世では年下なのでより頼りなく見える。抜け駆けした魔法使いではあるが、二人はなんだかんだ言いながらも彼女を妹のように思っているところがあるのだ。
その魔法使いは携帯電話を見て、そして駅を出た。てっきり駅で勇者と待ち合わせするのかと思ったが、そうではないらしい。魔法使いは携帯電話への連絡を待っていたようだった。
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