君のいない5月に

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 ついに100%デジタルになってしまった”美術部”の将来を憂いつつ、席を立とうとしたとき、目の前に一人の女学生が無言で立っていた。 「わっ!びっくりした!栗本さん・・・いつからここに?」 クリムトこと栗本理沙が、謎の微笑みをたたえ、教師の前に無言で立っていた。 「先生、絵を持ってきた・・・」  ストレートの黒髪を中央で分け、両手は軽く重ねられている。モナリザを意識して練習しているうちに、このポーズから抜け出せなくなってしまったらしい。 「あ、ありがとう。見せてくれるかな?」  学生はカバンから1冊のスケッチブックを出した。 「ゴールデンウィークに描いたのは、何枚?」  栗本理沙はスケッチブックをパラパラとめくり、答えた。 「全部です。1冊分」 「え?これ全部描いたの?」 「うん。でもね、先生、全然うまく描けなかったの。だから提出しないつもりでした」 「こんなに描いたのに?」 「はい、納得できなくて。でも、先生に見てもらって、ちゃんとした絵が描けるようにアドバイスしてもらおうと思って持ってきました」
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