4人が本棚に入れています
本棚に追加
ムーン・ライト
青年が一人、満月の夜の街をジョギングしていた。
青年は宇宙飛行士である。自らが行く宇宙と同じ天文学的な倍率を乗り越え、やっとのことでこの地位を手に入れることに成功した。
数多の試験を乗り越えて宇宙飛行士になったものの、宇宙ステーションと地球の往復を繰り返すのみで別の星に降りることは無かった。
そんな中、ついに他星移住開発計画が発動されることとなった。青年はその先駆けとなるメンバーに選ばれた。
その第一弾の行き先は「月」
1972年のアポロ計画中止以降、人類は月に足を踏み入れていなかったが、これより遥か先の未来20XX年になって、高性能ロケットが開発されたことで、月に行くことが容易になり、資源を運ぶことが出来るようになっての念願の月移住計画の発動である。
青年は日々、弛まぬ訓練をしてきた。宇宙飛行士と言うのは何もない宇宙での生存能力が要求される。
今、行っているジョギングもその一貫である。
日中、常に訓練こそしているものの「この程度の訓練では足りない」と感じていた青年は夜中にも関わらずに10キロ以上もジョギングをしていた。
青年は少し休もうと公園のベンチに座り込んだ。日中の訓練に加えて、更に体をいじめ抜くような夜中のランニングは青年の体に疲労を溜め込むには十分だった。青年はスポーツドリンクを呷りながら、夜空に輝く満月を見上げてつぶやく。
「あそこに行くのか…… 俺」
いつもそこにある月、その月の上に立つなんて信じられない。
青年は他星移住開発計画に選ばれて以降、月を見る度に毎回そんなことを思う。
最初のコメントを投稿しよう!