4人が本棚に入れています
本棚に追加
それからと言うもの、青年は夜中のランニングの度に少女に会った。
少女と会うのは決まって月明かりが強い夜、満月かそれに近い時ばかり。
半月や三日月のような月明かりの弱い夜には会えない、新月の日などは論外である。
青年は夜中に公園に行き少女がいないとがっかりするのだった。
何度も何度も月明かりが強い夜に会う度に軽く言葉を交わす程度の関係だったが、回数を重ねて打ち解けてきた二人はお互いの自分のことを話していた。
「へぇ、宇宙飛行士さんなんですか」
「まぁね」
「宇宙について詳しいんですよね?」
「俺なんかまだ全然だよ」
実際、宇宙飛行士と言う職業であっても、宇宙に関して博士号を取る偉い学者でも宇宙に関してはまだわからないことだらけである。青年は「宇宙に詳しい」と自称することはなかった。
「ちょっと疑問なんですけど、月ってどうして満ち欠けしたりするんでしょうか?」
「えっと、太陽、地球、月って一直線に並んで、地球の影で月の満ち欠けが無くなることを満月って言うんだ。三日月や半月や新月って言うのは地球の影が月にかかってる時のことを言うんだ」
青年は子どもにもわかりやすいように簡単な言葉のみで少女に月の満ち欠けの仕組みを説明した。少女はその説明を目をキラキラさせて聞いているのであった。
それから青年は人差し指を天に輝く月を指差した。
「今度、あそこ行くんだよね」
「月、行くんですか?」
「月の移住開発の仕事をするんだ」
「SFとか近未来の話ですね」
「その近未来の時代が今だよ」
それを聞いて少女は顔を俯いた。その顔は浮かない。青年は何か不味いことを言ったかなと思い困った顔をした。それに気がついた少女は瞬く間にフォローを入れる。
「すいません。近未来って聞いてちょっと思うものがありまして」
「どうしたんだい?」
「近未来になっても、あたしの病気は治らないんだなーって」
「病気? どこか悪いの?」
「ふふふ、今見てるところ全てが悪いですよ」
少女はブランコに反動を付けて揺らして前にジャンプし、くるりと踵を回して青年の前に立った。
「あたし、月の弱い光しか浴びられないんですよ」
最初のコメントを投稿しよう!