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「月の弱い光ってことは…… 日光とか浴びられないってこと?」
「VISTAって知りませんか? 太陽の紫外線を浴びると皮膚にキリンやヒョウみたいな斑模様が出来る病気なんです。酷いと斑模様が全身に広がって死んじゃうんです」
「ドキュメント番組で見たことあるよ。Variegated In Skin Take Acheの略称だったね?」
「凄いです! この病気のあたしでもうろ覚えなのに! さすが宇宙飛行士! 頭いいですね」
青年は照れくさそうに頭を掻いた。
少女はスカートを少したくし上げた。そこから見える白く細い足にはかさぶたを掻き壊したような痕が夥しくついていた。
「気持ち悪くない?」
「いや、大丈夫だよ」
「これ、子供の頃にまだこんな病気だって認定される前に出来た痕なんですよ。日光を浴びて体に斑模様が出来るとスッゴク痒いんですよ。全くもって原因も治療法も分からない病気なのでかゆみ止めすらないんですよ。だからひたすらに掻いて掻き壊し作ってたんです。それで、かさぶたの痕が消えなくなってしまって…… これはその痕なんです」
「ははは、僕だって蚊に刺されてよく掻き壊してかさぶた作ってオフクロによく怒られてたよ。似た者同士さ」
青年はそう言って自分のズボンの裾を捲り、少女に自分のすねを見せつけた。すね毛に隠れて見えにくいが確かにかさぶたの痕がいくつかついている。
同じ消えないかさぶたの痕ではあるが、重みは比較にならない。
「足だけじゃなくて、あたしの服で隠れている部分みんなこんな感じですよ。あたしの旦那さんになる人はおぞましいものを見ることになるでしょう」
青年は何を言えばいいのかわからなくなっていた。下手な慰めの言葉すら思いつかないのであった。月光で純白のワンピースが透けて少女のボディラインが見える、そのシルエットは女性になりかけの体で美しいものだった。だが、その中身は斑模様であることで少女の心に暗い影を落としてるのは明白だった。
「病気の詳細が分かってからは…… お医者様からは無慈悲な通告をされました。日光を浴びると死ぬよって」
「だから夜にしか外に出られないのか」
「そう、あたしにとってはお日様の光は眩しくて強すぎて浴びてるだけで生命を奪いにくる悪魔の光。だから、あたしは頼りない弱々しく優しい月明かりの下にしか出られないんです」
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