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青年は言葉を無くしていた。本当に慰めの言葉すら思いつかずに頭を抱えるのだった。
「あたしも月に連れてって欲しいな」
「どうして?」
「月にいれば、ずっと月明かりの下にいられるじゃない。地球にいると、お日様の光にビクビクしないといけないから」
少女は天に輝く月を眺めた。月に行けばずっと月明かりを浴びて健康でいられるという期待感に満ちた顔をしていた。
しかし…… 青年はその期待を打ち砕く通告をするのだった。
「月に行ったらすぐに死んじゃうよ…… 君が生きてられるのは月明かりの紫外線の少ない光の下でだけだ。月が光るのは太陽の光を反射してるからなんだ、言わば夜の間だけ太陽の光を間接的に地球に浴びせてるんだ。その間接的な光と言うのは紫外線を100分の1に軽減させるんだよ。だから、月に行ったら地球にいた時以上の紫外線を浴びることになってしまうんだ」
「そうなんだ…… あたし、日中の学校行ってない(行けない)から夜間にボランティアの家庭教師に勉強教えてもらってるんだ。その先生の中に理科の先生がいないから、あたし、なぁんにも知らないおバカさんだった…… 月の光って、月が自分で光ってると思ってた……」
誰にも教えてもらえずに、知らなければ月を恒星と思うのも仕方ない。
少女は目に涙を溜めていた、だが、その顔は何故か笑顔が混じっていた。
「宇宙飛行士さん、教えてくれてありがとう!」
少女はそのまま走り去ってしまった。
十数年後、月へと旅立った青年らの他星移住開発計画は成功し、月には人が暮らすようになっていた。
今や、月~地球の定期シャトル便まで出来ており、超特急列車並の運賃で乗船出来るようになっている。
その定期シャトル便であるが、地球から月に直行するわけではない。その途中で発見された小惑星に作られた中継駅を経由する。その小惑星は月の側に浮いていた。燃料、資源の補給もその小惑星でワンクッション置くことによって円滑に行われるようになっていた。
青年たち宇宙飛行士はその小惑星に「子うさぎ」と名付けた。
青年は他星移住開発計画を自分より若い世代に託し「子うさぎ」での補給任務に従事する。言わば、中継駅の駅長みたいなものである。
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