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大人のヤマイ
Side:奏介
結構なランクのホテルにイブの予約を取ってあるものの……ヒロに切り出せずにいる。
こういうことはあんまり好きじゃないだろうなって思って……
多分あいつは外で飯食ったらすぐに家に帰ってリラックスしたいって思うだろう。それがイブでも。
でも俺は……形からでも実感したかった。
俺とヒロは付き合ってんだって。
ヒロにとってはセフレの延長だって分かってる。気持ちがあのいとこにあるのも。俺がそれでいいって言ったんだ。忘れられるまで枷になってやるって。
でも、この間の日曜……彼を見るヒロを実際に目の前にしてみて、自分の言葉がいかに浅薄だったかを知った。
ヒロから彼の話をちゃんと聞いたのは、膿んだ恋の苦しみを深酒に任せてこぼしたあの一度だけ。
その時だってヒロの目にはその場にいない相手への渇望があったけど……現実に想い人を目の前にしたヒロの表情、声音の中には、俺に向けられるものとは全く違う押し込められた熱をはっきりと感じ取ることができた。
当たり前だ。
ヒロは彼を好きなんだから。
それが想像以上の苦しみをもたらした。
不動産屋から帰る車の中……知らず奥歯を噛みしめてた。
付き合ってるから恋人だなんて……呼称が変わったって中身はなんも変わらねえってことを体の芯から感じてた。
それでも……
ヒロがノンケの彼にアタックする気持ちがない以上あっちは手詰まりで、俺に分があるはず。
なんて……人の気持ちが盤ゲームの勝敗のようにどうにかなるもんじゃねえってのは分かってるくせに、そこにしかよすがが無い自分が必死過ぎて情けなくなる。
この歳になって、こんな恋をするなんてな……
「奏介さん。イブどうする?」
三日後がイブっていう木曜の夜、バイト終わりでうちに来たヒロが突然そう言った。
「や……そうだな……どうしよっか。ヒロは?なんかある?」
ばっちりコースは頭ン中にあるくせに、あんまり食いつくのも……と思って様子を伺う俺。
「いや、俺はなんにも。奏介さんはなんか計画してそうだなって思っただけ。何もないなら別にいいよ」
ヒロは最近の定位置になってるダイニングテーブルの一席に座って、テキストやルーズリーフを積み上げてく。
俺はというと……最初にまるで何もないかのように返事してしまったためにますます計画を言い出せなくなって……でも未練がましくその場に立ち尽くした。
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