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大人のヤマイ2
そしたらテキストを開いてぐ、ぐとテーブルに押し付けてたヒロがちらっと目を上げて、それからぷっと吹き出した。
「あるんでしょ。プランが。言っといてくれないと……こっちにも心の準備ってもんがあるからさ」
どうだろうね、お見通しっていうこの態度。まぁ当たりだけど。
「お前が嫌がるかもと思って言い出せなかっただけ。そこまで言うなら付き合ってもらうぞ。帝国ホテルのディナーにバーにインペリアルスイート」
俺がキッチンの換気扇の下に移動してタバコに火を着けながら言うと、ヒロがあからさまにぎょっとした顔をした。
「マジ?」
「マジ」
イブのレストランもバーも確実にカップルだらけだ。そんなところにスーツ姿の男二人なんて浮くこと間違いなし。
俺はおそらくその状況を想像してるであろうヒロの嫌そうな顔を堪能してから、堪えていた笑いを煙と共に吐き出した。
「んなわけねえだろ。俺だって嫌だっての。まぁ部屋はとってるよ。スイートじゃねえけど」
「そーだよね。そんなわけないって思ったんだけどさ……奏介さん好きそうだから。そーゆーやつ」
「……うるせぇな。ヒロ、昼間は勉強するだろ?だから夕方からちょっとドライブして、遅めにチェックイン。メシは全部ルームサービスにするから」
「全面ガラスの100万ドルの夜景をバックに指輪を差し出すとか、やめてよ?」
「やらねえよ!プロポーズか!」
お互いに笑いながら……どこか気を遣い合ってる空気を感じてる。
でもそれは仕方ねえし……付き合っていけば徐々になくなっていくんじゃねえかなとも思う。1月になればヒロはあの家を出るし……物理的に距離が出来れば、きっと……
「そうそう……引っ越しに使うトラック、借りられることになったから。来月14日だよな?」
「うん。そっか、ありがと」
「でかいのは収納家具と机、くらい?」
「うん。出来たら家具屋でベッドと布団、買って乗っけて行きたいの。配達だと受け取り時間にすげー困るから」
こうやって、未来の話をもっとしたい……
早くあそこから引き離したいんだ。
ヒロが忘れてしまえるように。
優し気な大きな黒い瞳の面影を、探すことが無いように……
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