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幻の魚
「ちょー会いたい……!なあ、紹介してくれよ!俺、出来たら彼を招いて別の情報交換会を主催したいんだよ!」
もういつにない熱心さで言われるけど、俺だってこの間会ったばっかだし紹介って言っても……
「一回しか会ってないし……しかも俺の方は名刺渡してなくってさ。紹介は無理かも……でもヒロくんに、それとなく聞いてもらうことくらいは出来ると思うよ」
そう俺が言った時の淳平のがっかり加減。「そっかー……」って……肩落としちゃってさ。そりゃそうだよね。関係が遠すぎてハナから断られそうだもんね。
淳平は御厨さんの名刺を両手で持って「ダメ元でいくか…」って諦めきれないような顔をしてて……俺、なんとか出来ないかなって思って……ピン、と来た!
「あのね、ヒロくん来月に引っ越すんだけど、その手伝いに御厨さんが来るよ。淳平も引っ越し手伝いに来る?」
ヒロくんと淳平は直接面識はないけど、俺が間でお喋りしてる分お互いのことは知ってるし。大物運ぶのに人手は多い方が良いだろうし!
どう?ナイスアイデアじゃない??
「マジ!?行く!!絶対行く!!」
嬉しそう……ふふ、こっちもつられて笑っちゃう。
この時の俺はそこまで頑張って会わせてあげようって画策したわけじゃない。たまたま次に会うタイミングがあってしかもそれに淳平が来ても問題無さそうって思っただけで。
だから……人と人の出会いは偶然じゃないね?
誰かが誰かの間を結んで、離れた世界の者同士が繋がって行く。
「魚……釣れた?」
淳平がトイレで席を外した時、マスターがカウンターに顔を近づけてひそひそ言った。覚えててくれたんだ、って俺は笑みを返した。
「釣れたって言うか……釣れたけど逃げちゃったって言うか…」
「ふうん……まぁ、そーゆーこともあるなぁ」
「別の海に行っちゃうんです。おさかな。すごい寂しいです」
「追っかけてけばいーじゃん。舟に乗って」
伝説の魚を追う釣り師!男のロマンだなぁ~って釣竿を振る仕草をして言いながら、マスターはお客に呼ばれて向こうに行った。
「何の話?」
まだウキウキした雰囲気を纏ったまま戻ってきた淳平が言うのに「釣りの話。マスター、釣りが好きなの」と返しながらちょっと笑う。
ヒロくんがおさかなになって海面へぴんっと跳ねあがった映像が、目を閉じた暗いスクリーンに浮かび上がったから。
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